第12章 点と線
『俺は寝る。
明日、出陣だ。夫婦だけにしろ。貴様も少し休め。』
『はぁ…。』
『なんだ?』
『いえ、じゃあお言葉に甘えて。』
家康は手早く片付けると、咲を連れ立ち上がった。
襖を開けると、秀吉、政宗、三成、光秀、佐助が柱に持たれたり縁側に座り待っていた。
咲が先に出たのを目で確認すると、家康は5人にも聞こえるように話始める。
『信長様。』
『まだ何かあるのか?』
『早く終わらせて、普段に戻りましょう。そうしたら、またあの丘で、…上杉達も呼んで、旨い政宗さんの料理食べて、花を摘んで空を眺めるんです。』
『…ふっ。どうした、急に。』
『は、心労とはいえ耳が聞こえない中で、月の物も来て、漸く体が元に戻りかけていた。その中で傷を負った。
もしかしたら、熱が下がってから耳の聞こえや他の何かで症状を残すかもしれません。
最善は尽くします。
ただ、命は助かっても、違う何かがあった時に、あんたがの側にいなければ、意味がないんです。』
家康が俯きながら話終わると、秀吉が家康の頭をポンと撫でた。
『…、家康。』
信長の声が聞こえる。
『はい。』
家康は、声を震わせながら返事をした。
『何があっても、はだ。
家康、明日からが正念場だ。休め。』
『…はい。』
家康は静かに歩き出す。
『なんか食おうぜ。』
政宗が肩を抱き、三成と佐助が後を追う。
残された秀吉と光秀は、無言で視線を合わせると、パタンとの居る部屋の襖を閉めた。
※
『明日、行ってくる。』
信長は、真横で眠るの頬を撫でた。
肩肘を付き顔を覗くと、柔らかな唇に手を当てた。
少し乾燥した唇を、ふにふにと触る。
『早く起きろ。貴様が居なければ士気が下がる。俺もよく眠れない。』
そう言うと、信長はの汗をぬぐうと、布団の中から左腕を出した。
『熱いな。』
信長の左手との左手が絡む。
右腕を枕にし、信長はゆっくりと目を閉じた。
翌日、秀吉がの部屋に声をかけるまで、二人は束の間の休息を得た。
※
どんよりとした曇り空の中、信長と秀吉、政宗が鎧をつけの部屋に入る。
そこには、咲がの褥の脇で頭を下げていた。