第12章 点と線
ふぅ、と一息吐くと強い眼差しで天井を見上げた。
『佐助!』
信長の声が静かな城内に響く。
『盗み聞きとは感心せぬぞ。出てこい。』
すると、天井裏から顔を出した佐助は音もなく降り立った。
『バレてましたか。』
『気配など隠しておらんかっただろう。天井からではなく、正面から来いと言ってるだろう。』
『腕試しを兼ねておりまして。』
『…で、用件はなんだ?』
秀吉が険しい顔つきで佐助に問いただす。
『友好協定とはいえ、今の話聞いてたか?』
そういうと、政宗の蒼い目がギラリと光った。
『聞いていないと言えば嘘になりますが、上杉もこれから皆さんが向かう西には注意をしていました。同じ様な情報をこちらも得ております。』
『ほう、さすがよ。』
『しかしながら、こちらも国境で友好協定に反旗を揚げた小国の小競り合いが発生。兵をこちらには割けぬ状況にあります。』
『へぇ、あっちも大変なんだな。』
『はい。我が主君、上杉謙信よりの言付けを申し上げます。』
佐助はすっと口布を下ろすと、膝立ちになり眼鏡をくっと持ち上げ、話始めた。
『に傷を負わせたこと、許すわけにはいかぬ。落ち着けば、直々に成敗に向かう。』
『なっ!』
『…、こちらも詰まらぬ小競り合いに手間がかかり、貴公が不在の間のを護るための兵は割けぬ。
そのため…、我が右腕、軒猿佐助とその数名を一時的にの守護とし向かわせる。
…以上です。』
『ほう。』
『命は、の警護です。よろしくお願いいたします。』
『では、家康の手足となるということか。』
『えぇ、嬉しい限りです。』
『はぁ、面倒。』
『あっ、さんに使う越後の傷薬と薬草です。
皆様には、越後の地酒をご用意しました。』
『はっ、土産があるのかよ。ま、俺たちが不在の間、宜しくな。佐助。』
政宗がニヤリと笑うと、秀吉は長いため息を吐いた。
光秀は目を瞑ったままで、三成は天井裏を覗き始める。
すぐに自分を受け入れた織田軍の姿に、佐助はフッと吹き出すように笑った。
『何を笑う?』
『いえ、少し前まで敵対していた両軍が、このように繋がる事が奇跡のようで。』
『ふっ。貴様の主君も共々、点の一つなのだろうな。』