第11章 隠れた太陽
信長がを寝かすと部屋の襖は閉められた。
中では家康と咲が診察と治療が始まった。
『俺はここにいる、お前達は秀吉、光秀を迎えに行け。』
『…、はっ。』
『直ぐに戻ります。』
『あぁ、頼んだ。』
信長は、政宗と三成の背中を横目で見送ると、柱に体を預けた。
『なぜ、俺は、守れない…』
信長の独り言は吹き込んだ風にかき消された。
※
『様、何故こんなことに…』
咲は、血まみれのの姿を見て体が動かなくなってしまっていた。
今朝、共に選んだ白から深紅のグラデーションの小袖の肩口は、赤黒く染まり所々固まり始めていた。
時間をかけて丁寧に結い上げた髪もほどけ、血糊もついていた。
『脈は少し弱いけど落ち着いてる。脱がせて傷口を見るよ。』
『…。様。』
『咲、脱がせるの手伝って。』
『…。』
家康は、上目遣いに咲を見て叫んだ。
『咲、聞いてるの? やれないなら、出ていって!』
『はっ。』
『咲、あんたはの女中頭で一番近い存在だから呼んだ。助けたいなら動いて。できないなら、外に出ろ!』
『家康様…、はい。申し訳ありません。』
『咲、左から脱がせる。』
『はい。』
『右はゆっくり、腕や肩を動かさないで小袖を引くんだ。』
『はいっ。うっ。』
咲は、ボロボロと涙を流しながら家康を補助している。
『撃たれたのは、右肩一発。まだ血が滲むな。
咲、肩と腰をゆっくり動かして横に向けて。』
『…はい。』
『…、うん。そう、ゆっくり。…よし。貫通してる。
戻すよ。』
「ううっ。」
『様!!』
『昏睡ではなさそうだ。よし。傷を処置するよ。手を洗ってくる。咲は、さらしを準備して。』
家康は、素早く立ち上がり襖を軽く開けた。
『家康。』
柱に持たれながら立つ信長が、低い声で呼ぶ。
『弾は貫通してます。まだ血が滲むように止まりませんが。』
『そうか。』
『家康!酒とさらし、診察箱だ!』
『政宗さん、ありがとうございます。』
『あぁ、光秀と秀吉も無事に戻った。今、三成と共に捕らえた刺客に尋問してる。』
『そうですか。』
『入り用はあるか?』
『湯を。』
『わかった!…なぁ、家康。』
『なんですか?』