第10章 舞散る花びら
「本当は誰よりも暖かくて優しいの。でも、この世がその優しい部分に蓋をして、強く恐ろしいものにさせてしまった。本当は、優しくて、誰よりもみんなの事を考えてるんだ。」
『暖かくて優しい、か。』
『俺達には見えないあの人の奥底が、には見えてるんですかね。』
「…なんかさ。
改めて考えると、安土のみんなは私の生まれた世では偉人ばかりだから、私、すごい人と結婚して、すごい人に守られてるんだね。」
『俺達がどうかはわからないけど…。すごい人の奥方なのは認めるぞ。』
『わかってないのは、あんただけ。』
「そっか、ふふふ。」
『…さ、お迎え行くか!』
『案外早く着くかもしれないし。』
「うん、じゃあ着替えてくる!」
『城門に来いよ。』
「はーい!」
パタパタと広間から自室に戻る背中を二人は優しく見守っていた。
『元気になって良かった。』
『あぁ、あいつが笑ってなきゃ俺達は戦う意味ないですから。』
政宗と家康は互いに視線を合わせると、丘に向かう準備を始めた。
※
「早く着いたかな?」
家康と政宗の愛馬は丘から降りた所の川縁に繋がれ、水を飲んでいた。
『あんまり遠くに行くなよ?…って、家康機嫌治せって。』
丘に向かう道中、どちらがを乗せるかくじ引きをした結果、政宗が勝ったのだった。
『はぁ。帰りは信長様で、最後の機会だったのに。』
「家康、こっちに薬草あるよー!」
『…あんた、きれいな着物着てるんだから薬草何て探すんじゃないよ。』
『俺が先を見ておくから、行ってこい。』
『はい、頼みます。』
『あぁ。…ん?なんだ?』
『え?』
『いや、なんか気配しねぇか?』
『気配、? 佐助ですか?』
『いや、いい気配じゃねぇな。』
『…。…そう言われると確かに。』
二人は周りを見回した。
ざわざわと風に揺られた木々と花が揺れる。
『動物、でしょうか。』
『用心に越したことはねぇ。あいつは天下人の奥方だ。』
『そうですね。 ねぇ、!こっち戻って!
はぁ、どこまで行ってるの?』
家康は、のいる花畑へ向かっていった。
『奥方と武将か。やはり信長が来るようだな。』
そう囁いた黒い影が
三人から離れた丘の近くの林で、動いた。