第9章 太陽に向かって
『珍しいな、頂こう。三成、医学書だ!医学書探すぞ!』
『は、はい!』
『包丁は、どうなさいますか?』
『出刃包丁とまな板にした。』
『これで沢山の好物を作らせられますな。』
『…ふっ。あやつはの料理人か?』
『いえ、奥州を治める伊達家当主かと。』
『医学書は?』
『三成と秀吉が。』
『よし、見つかり次第、宿に戻るか。』
『はっ。…宿で楽しむ地酒を買ってきましょう。堺の夜も最後です。』
『むさ苦しい夜だがな。』
『恋しくなりましたな。』
『ふっ、いいから行け。俺は書物屋に行く。』
『はっ。』
ここは、見渡せど安土城はなく
あぁ、貴様と離れているのだと
実感する。
貴様と共にこの市を歩けたら
喜ぶ顔が目に浮かぶ。
口の中の抹茶の飴が
じりじりとした暑さを逃すように
香る
次は
連れてこよう。
目を輝かせて、あの店この店と走り出す貴様と共に
陽が暮れるまで逢瀬だ。
気付けば太陽を見ていた。
まぶしいくらいの太陽を。
やはり、俺は向日葵だな。
貴様に向かって帰るとしよう。
紅と香、櫛と飴細工。
一つ一つ出せば、百面相を見れるだろうな。
楽しみで仕方ない。
『秀吉、医学書は見つかったか?』
『は、…光秀は?』
『宿で楽しむ地酒を探しに行った。そろそろ来るだろう。』
『なるほど。…、良い土産が買えましたね。』
『あぁ、喜ぶ顔が目に浮かぶ。』
『はい。明日は夕暮れ前には丘に着くかと。
…まぁ堺の出立は夜明けですが。』
『仕方なかろう。迎えに来るのだから。』
『楽しみですね。』
あぁ、待ち遠しい。
明日の午後には会えるというのに。
俺はこれ程までに府抜けたのか。
だが、それが心地いい。
俺の心は此処にはない。
、もう貴様の側に。
飴細工の渡り鳥の様に飛び立った。
貴様の側から離れられない。
永遠に。
何があっても。