第9章 太陽に向かって
旨そうな、甘い匂いがした。
匂いの先を探してみる。
『おや、どちらに?』
『光秀、甘い匂いがする。』
『甘味…でしょうか?』
小物屋から然程歩かずに甘い匂いの飴屋に着いた。
『ほぅ、見事ですな。』
飴屋には様々な飴細工があった。
『安土ではここまで細やかな飴細工はありませんな。』
『この鳥のような飴細工はどうだ?』
『宜しいかと。…この桔梗の飴細工、の土産に宜しいですか?』
『光秀、貴様…ぬけぬけと。』
『信長様には、こちらの金平糖の小瓶を私からの土産に。』
『…。二つだ。』
『は?』
『へ桔梗の飴細工を土産にするなら、小瓶二つで目を瞑る。』
『…、では有能な右腕に見つからないうちに手早く。』
『あぁ。』
バタバタ!
『御館様!こちらにいらしたのですか?探しましたよ!』
『あぁ。』
『飴、細工ですか?』
『鳥の飴細工を土産にした。』
『そうでしたか。…それだけを買いに?』
『…、他に何かあるのか?』
『あ、いえ。…三成が古い書物を扱う店に入りました。ちょっと見てきます。』
『あぁ、任せた。』
秀吉が三成のいる店に向かうと、入れ違いに光秀が戻ってきた。
『先程の鳥の飴細工。渡り鳥だそうです。真っ白な羽を広げると優雅な姿だそうです。』
『そうか。』
『…それと、此れを。』
光秀から手渡されたのは、ころんとした小さな飴。
『抹茶の飴だそうで。』
『ほう。』
俺はその飴を口にいれた。
苦味のある深緑の風味が鼻から抜けた。
『三成が古い書物の扱う店に行ったそうだ。
秀吉も向かった。あやつは、茶が好きだ。分けてやれ。』
『御意。』
『包丁と医学書も探す。』
『…なるほど。金物屋ならちょうど書物屋の二軒先ですな。』
俺はまた歩き出した。
『あったか?…三成? 三成!』
『あ、はい!興味深い明の兵法書ですね。』
『じゃあ、それ買え。ここで読んでいたら陽が暮れる。』
『おい、信長様が医学書も探せと。』
『あぁ、留守番組の土産にか?』
『今、信長様は金物屋で包丁見ておられる。俺はそちらに行くからな。』
『わかった。光秀、信長様を頼む。』
『あぁ、。あ、秀吉、ほら!』
『なんだ? 飴か? 投げて寄越すな。』
『茶の飴だ。』