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暁の契りと桃色の在り処 ー音ー

第1章 ふたりのかたち


女中の咲はの足元に使い慣れた裁縫道具箱と反物を置いた。

「わぁ、よくわかったね!」

『しっかりした側女中だな。』

『恐れ入ります。』

『秀吉、休憩は終いだ。始めるぞ。』

『はっ。』

秀吉は、文机に書簡や紙を広げる。
信長も新しい書簡を手に取った。
は、信長が書いた家紋を見ながら丁寧に刺繍を始めた。

夏の心地よい風が襖から吹き込む。
ふわりと信長との揃いの沈香が香る。

同じ広間で背中合わせに仕事をする安土城城主の夫婦。
肩を並べ同じ景色を見る。互いの想いを伝え合う。

妻は一歩後ろで、という戦乱の夫婦の考え方を覆すあり方も、今は見慣れた風景になったか。

次第にが先の世の歌を口ずさむ。
それを、心地よく聞きながら政務を進めていくのが日常になりつつあった。

こんな毎日が続けばいいのにな。
信長様とが笑い合い
血など流れずに世を治めていく。
その手助けを
生涯、お側で。

歌を口ずさむを、優しく見詰める主君の眼差しを、秀吉は眺め、ふっと口元を緩めた。



こつん。

信長の背中にがもたれ掛かった。

『寝たのか?』

「はぁ。暖かな日差しに眠気が来たのでしょう。、おい。起きろ…」

『よい、秀吉。咲、裁縫道具を片付けよ。』

信長は、背中に持たれて眠るをゆっくりと動かし、自身の膝の上に寝かせた。ふわっと、羽織をにかけると何事もなかったように政務を続けた。



『仲睦まじいご様子、安心致しました。』

襖から、銀髪と白い羽織が見えた。

『光秀!
また黙って出ていったと思ったら、お前は何処に行ってたんだ?』

『我が主君は貴様じゃないのでな。言う必要はない。
三成から此方にいらっしゃると聞きましてな。

…ご報告を。』

『それで、案内した三成は?』

『俺の馬を馬屋に返しに行った。時期に戻るだろう。』

『おい、三成を使うな。』

『私が、申し出たのですよ、秀吉様。早くご報告が出来ればと。』

にこやかに笑う三成が広間の中に入った。

『揃ったな。が目覚める前に話せ。』

『我が姫君が嫌いな戦話にて… 早々に。』

光秀は、ちらりとの寝顔を見ると厳しい表情で話始めた。






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