第1章 ふたりのかたち
ふたりの祝言は、季節が巡って訪れた初夏の紫陽花の咲き乱れる晴れた日に執り行われた。
安土城の針子達が作り上げた白無垢、政宗が送った六色の鶴の簪。色白の肌に輝くような紅。
紋付き袴の信長の隣でキラキラ輝きながら柔らかく微笑むは、織田の姓を名乗ることを決め、天下人の正室として歩み始めた。
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「ふふっ。」
『また思い出しているのか?』
「だって、楽しかったから。」
『あぁ、みんなが信長様の正室になって嬉しかったんだ。』
「秀吉さん、ずっと泣いてたもんね!」
『あ、おい。それは言うな!』
『貴様の兄貴として、母として。思うことがあったんだろう。面倒な姑よ。』
『の、信長様!面倒とは、…!』
「一番思っていてくれてること、わかってるよ。」
『あぁ、これからも支えていくさ。』
「三成くんも、鼻血止まらなくて家康がわたわたしてたね。」
『そうだったな。』
「政宗は、忙しい中で祝言後の宴の準備してくれて…。ご馳走美味しかった! 次の日の朝のお漬け物も絶品だったね!」
『宴の後の胃にはあっさりした漬け物が良かったな。』
「梅干しもわざわざ漬けてくれてて、謙信様が気に入って一壺まるまる持ち帰ってましたよね。
信玄様も政宗の甘味を気に入ってお土産に作らせていたし、城下の甘味を買い占めてたし。」
『佐助は、俺にまきびしを祝いの品だと渡してきたぞ。』
「天守に飾ってある金のまきびし!」
『よくもまぁ、作ったもんだな。』
「はぁ、…みんな元気かなぁ。」
『家康、政宗は祝言の後にまた国に戻ったからな。
二人や上杉達には、もう送ったのか?』
「うん。秀吉さんや光秀さん、三成くんに作った時にみんなの分も家紋の刺繍入り手拭い作ったの。
ついこの間送ったんだ。今は、遠方から来て頂いた大名の方たちに作ってるんだ。」
『、出来たぞ。』
信長は、わかりやすく書いた堺と清洲の大名の家紋を見せた。
『政務はまだ少しかかる。貴様も隣で針仕事をしろ。』
「え、でも毎回じゃ…」
『主人の言うことを聞けぬのか?』
『、気にするな。お前がいると場が和むからな。』
「…じゃあ、仕事の物持ってきます。」
『様。』
「あ、お咲。どうしたの?」
『これを。』