第7章 俺とあいつと虎と鹿
『まぁ…。奥州と駿府の城主様が子供のよう。』
「咲、これは内緒ね。もう少しだけ、寝かせてあげよう。」
『あと一刻もすれば起きられることでしょう。』
「夕げ、みんなで食べようか。家臣の方にも話しておいてくれる?」
『承知しました。』
そんな会話をしていたなんて、俺は知らない。
家康も、俺もぐっすり寝てしまって目覚めたら陽が傾いていた。
に夕げを誘われて、それなら照月とわさびを御殿に返すと、一度二人揃って城を出た。
二人と二匹の影が出来た。
『すっきりした顔してるな。』
『政宗さんこそ。』
『膝枕、絶対言うなよ。』
『言えるわけ無いでしょ。斬られますよ?』
『役得だったな。』
『えぇ、ほんとに。…今夜、星が降るんですか?』
『どうだろうな。夕げを食べたら見てみるか。』
『そうですね。また喜ぶだろうし。』
同時に俺達は立ち止まる。
視線が一瞬絡まった。
『役得、ですね。』
『だな。』
俺達は足早に歩き出した。
※
「政宗、急に頼んだのに、だし巻き卵、ありがとう!」
一口、だし巻きを口に運ぶと「うーん!」って笑う。
…ずるいな、お前は。
何でも叶えてやりたいって思ってしまう。
「家康、唐辛子かけないで食べてみなよ。美味しいよ?」
『これも、旨いの。』
真っ赤に染まる家康の膳。
どうしてこう、織田軍は食でも個性が強いんだ?
『ねぇ、俺達がいない間は、昼も夜も皆で食べてたの?』
家康、おもしれぇこと聞くな。
「そうだね。時々、光秀さんが居ない時もあるけど、大体は皆で揃って食べてたかな。
謁見や政務が長引くと、…一人だったりもしたよ。
一人の夜は、咲が側にいてくれたんだ。」
『頑張ってたんだな。偉いぞ。』
ちょっとだけ、の瞳が揺らいだ。
寂しかったんだよな。
わかるぜ、手に取るように。
『食べながらは、何話すの?』
「だいたいは、食べ方を正す秀吉さんが喋ってて。」
『やっぱりな。』
「信長様が、私の好きなおかずをちょっとくれたり。」
『おかず、くれるの?』
「うん、ひょいって。」
『見てみたいな。』
「あとは、私が見つけた甘味や小物屋さんとか反物とかを話すよ。」