第6章 奇妙なお留守番
を追いかけるように、俺達も歩き出す。
『なぁ、家康。』
『なんですか?』
『この数日くらいはよ、をただの姫に戻してやりてぇ。手、貸せよ。』
『そうですね。織田信長の正室って重責を外してやりましょうか。』
『たくさん笑わせて、うまいもの食わせてやろう。
あ、三成がな。この数日に星が流れるって話してたぞ?』
『じゃあ、皆で見ましょうか。』
『ふっ。皆で、か。』
『えぇ、皆で。』
「政宗、家康、どうしたの?」
『いや、なんでもないぞ。握り飯作るな!』
『俺は馬を準備してきます。』
きっと、こうやって甘やかす事くらい、信長様はわかってる。
だから、存分に甘やかす。
少しだけ、柔らかくて甘くて重い【正室】の駕籠から出してあげる。
俺は自然に緩んだ口元を手で隠して、馬屋に向かった。
※
城に戻ると、政宗さんが咲に何か話していた。
たぶん、この数日は【正室らしく】とか何とかを求めるな。何て言ってるんだろう。
咲も笑って頷いていた。
なんて幸せな姫なんだろう。
どこ探したって、こんなに愛される姫はいない。
『せっかくだから、ここで食うか!』
政宗さんが昼を食べる場所にしたのは、広間に面した縁側だった。
「ここ? 怒られちゃうよ?」
『誰にだよ?』
『居ないでしょ?』
「あ、そっか。ふふふっ。」
縁側にを挟んで三人で座る。
『は梅干しと鮭、どっちだ?』
「鮭!」
『家康は?』
『…梅』
「なんか、悪いことしてるみたい。」
『楽しいだろ?』
「うん!」
、姫はそんなに口開けて食べないよ。
…まぁ、あんたらしいけど。
『今日は、これから丘に花を摘みに行く。明日はどうする?』
「なんでもいいの?」
『何がやりたいか言ってみて。』
「うーん。じゃあ、照月とワサビと遊びたい!」
『じゃあ、明日はここに連れてくる。家康もいいな?』
『はぁ。』
面倒。照月は小虎だからいいけど。
ワサビは、鹿だから…
鹿を連れて歩くって…
恥ずかしい。
仕方ないけど。
『…あとは?』
「甘味を作りたい! この前の政宗の茶菓子で閃いたのがあるの。」
『へぇ、じゃあ作ろう。』
「あとは、二人が政務してる近くで針仕事したい。」