第5章 ちゃんとした姫
『佐助!』
家康が佐助くんを呼び止めた。
佐助くんは、天井裏から頭の半分だけ覗かせた。
『信長様が広間で待ってる。政宗さんの浸けた梅干しと一緒に。』
「わぁ、すごい!」
『ばれてましたか。』
『気配消してないでしょ?』
『確かに。では…』
スタッ。
また颯爽と着地をした。
『休憩の茶と茶菓子はないからね。』
『信長様にご挨拶して、梅干し受け取ったら帰ります。』
『当たり前。、行くよ!』
「あ、うん。咲もいいよね?」
『だって、あんたの母上なんでしょ?』
「聞いてたの?」
『聞こえたの。』
咲は、顔を赤らめて俯いていた。
私は咲の手を取り歩き出した。
『さん、家康公に呼び捨てされたよ。』
「あ、…うん。良かったね!」
『うん。泣きそうだよ。』
ふふっ。私が笑うと家康が振り返る。
『早く来い、佐助!』
「やった! 二回目~。」
『昇天しちゃう。』
『いいから!』
家康の天の邪鬼な優しい悪戯に、私はまた笑ってしまった。
※
信長様に頭を下げて、私の見舞いで越後の薬茶を届けたと話した佐助くんは、政宗の浸けた梅干しを片手に颯爽と帰って行った。
「軍議、一段落ですか?」
『あぁ。それに皆が貴様に会いたそうっであったからな。』
そう信長様が言うと、私の手を取って上座の隣に座らせてくれた。
秀吉さんが、優雅にお茶をたて始めると政宗が茶菓子を配り始めた。
『今日は、葛で枇杷を固めてみた。枇杷は甘く煮たんだ。』
「美味しそうだし、綺麗。」
『の事を考えて作った。
びた、み、んからーだったか?元気の出る色なんだろ? 枇杷の橙色も元気の出る色なんじゃないかってな。』
「ビタミンカラー、誰から聞いたの?」
『俺だ。ほら、前に呉服屋で話しただろ?』
「秀吉さん! あぁ、覚えててくれたんだね!」
『このような色で元気が出るなら安いものだな。』
「もぉ、料理は目から!ですよ、光秀さん。」
『いいこと言うじゃねぇか、。』
『料理は目から、ですか。視覚から攻めると言うのは戦にも通用しますね。さすが、様は信長様の正室になられる御方です』
『茶菓子で、戦まで考えるって、あんたなんなの?』