第5章 ちゃんとした姫
何事もなかったかのようにお茶を運んできてくれた咲は目が赤くて、きっと私も目が赤くて、お互いに視線が合って笑い合ってしまった。
かたん。
天井板が鳴った。
咲が慌てて、襖を開けようとした。
「待って、。佐助くん?」
私が動いた天井板に話しかけると口布をした眼鏡の忍が颯爽と現れた。
『調子はどう? 聞こえてるみたいだね。』
「うん。かなり良くなったの。もう、目眩も耳鳴りもしないよ。」
『良かった。』
「今日は仕事?」
『いや、素直にさんの見舞い。まぁ、土産は買うけどね。
…ってか、咲さんが固まってる。』
「あっ、咲。大丈夫だよ。
こちらは、佐助くん。謙信様に仕えてて…。」
『同郷なんです。さんと。』
『えっ。』
咲が、目を見開いて驚いていた。
「同郷なんだけど、訳あって離れ離れなの。でも、一番のお友達で大切な人。信長様やみんなも知ってるから安心して。」
『は、はい。』
『咲さんとさんの会話、ごめん、聞いちゃった。泣けたよ…』
『まぁ、お恥ずかしい!』
『幸せだね、さんは。』
「うん、そうだね。本当は、秀吉さんじゃなく、咲が、安土のお母さんなんじゃないかって思ってきたの。」
『あ、俺もそう思った!』
『様の母上様の代わりなど勿体無い事です。』
「ふふっ。咲、自信を持ちなされ!」
『まぁ、様。』
ぷっ、と吹き出した佐助くんを合図に私も咲も声を出して笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだった。
スパン!
勢い良く襖が開いた。
驚いて視線を移すと、不機嫌な家康が立っていた。
『佐助、あんた何してるの?』
『家康公、お邪魔してました。』
『呼んでない。…、休憩になったから迎えに来たよ。佐助、あんたも帰る時間。』
『そうします。あ、そうだ。これ。謙信様と信玄様から。』
佐助くんから渡されたのは小さな麻袋だった。
「なに? これ。」
『越後の薬茶。気分が落ち着いたり暖まる成分だって。』
『大丈夫なの、それ?』
『家康公、調べていただいて構いません。』
『友好国で後ろ楯だけど、一応調べるよ。』
『はい。大丈夫です。
じゃあ、また来るね。お大事に、無理しないでね。』
「うん、ありがとう!」