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暁の契りと桃色の在り処 ー音ー

第5章 ちゃんとした姫


『体調はどうだ?』

信長様が、私の頬を撫でた。ふんわり沈香の香りがした。

「だいぶ落ち着きました。耳鳴りも目眩もありません。ご心配お掛けしました。」

『堺には、二日後に出立する。』

「はい。」

『土産、楽しみにしておれ。』

「え、お土産?」

『要らぬのか?』

「…頂けたら嬉しいですが、怪我無く無事に帰ってきてくれれば、十分です。」

『ふっ。貴様はまったく…』

「え?」

『ねだっても良いのだぞ? 奥方なのだから。
少しは我が儘になれ、
お前は、ちゃんとした安土の姫なんだからな。』

『光秀!』

「…聞いてたの? みんな。」

『はぁ。だから、聞こえたの!』

『あまりにも静かな城内でしたので、咲様の声が響きました。』

『いい説教だったな。』

『あぁ、政宗。その通りだ。を良く見てくれてるってわかったぞ。ありがとうな、咲。』

『は、えっ。申し訳ありません!』

『俺が不在の間は、家康と政宗が城守りをして、貴様を守る。咲もの側を離れるな。』

『承知しました。』

「政宗や家康と城下行ってもいいですか?」

『…良くはないが、どうしてもというなら仕方ない。』

「…どっち?」

『はぁ、甘過ぎ。』

『、御館様の不在の間は出歩くな。』

「でも、仕方ないって、今…」

『行ってもいいってことだろ?』

「やったー!」

『体調みてだからね。』

「はーい。茶屋と反物見に行こうね!」




私は、みんなと他愛のない話をしながら楽しく笑うのが大好きで。
血生臭い乱世で、命懸けで生きるみんなの癒しを与えられたらと思う。

それが、
みんなの帰る場所になるなら
咲の言ってくれた誇りに繋がるような姫になれるなら

私はそれで幸せで。

大好きな人が隣にいて、視線を合わせられるだけで体が熱くなる。

みんなと笑う度に、心が暖かくなる。



ずっと、ずっと

それが続くって

そう思ってた。

皆の涙や余裕のない姿なんて

見ることないって

そう思ってたの。










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