第3章 繁栄と幸せの狭間
『寒くはないか?』
「はい、大丈夫です。」
『此処は誰も来ない。俺と貴様だけの場所だ。安心して眠れ。』
「…信長様。」
『なんだ?』
「…やっぱりなんでもありません。」
『嘘をつけ。なんだ?言え。』
「口づけを…。おやすみの口づけをして、欲しいです。」
『ふっ。全く貴様は…。』
信長は、の前髪をすくと、ちゅっと音を立てて口づけた。
『今宵はこれまでだ。我慢が出来なくなるからな。
俺は、書をしたためる。先に休め。』
「はい、おやすみなさい。」
信長は、の頭を撫で、もう一度額に口づけた。
言葉を交わさずとも視線で愛を伝え合う。
の瞼はゆっくりと閉じれ、規則的な寝息が響く。信長は、優しく微笑むと立ち上がり、文机に向かったのだった。
※
翌日は、晴天で涼しげに風が髪を遊ぶような心地の良い陽気だった。
は、信長の隣に。
その回りを囲むように秀吉、光秀、三成が並び、これから到着する家康を城門で待ち構えていた。
『、大丈夫か?』
「うん、今日は楽。」
『昨日ぐっすり眠れたからか?』
『こやつは、俺の寝る場所もないほどの寝相であった。』
「の、信長様! もぉ!」
『ぐっすり眠れたなら良かった。』
『おや、秀吉。信長様の寝場所を取るなど、と叱らないのか?』
『の体調も大切だからな。』
『姑には頭が上がらない。』
『御館様!申し訳ありません!』
『…、皆様、見えましたよ!』
三成が指を指す方向には黄色の装束が見えた。
「いえやすー! って、あれ?」
『あいつ…、明日じゃなかったか?』
『仲良く一緒に登城か。』
『ふっ、出迎えが一度で済んだな。』
「まさむね!」
『また、城が賑やかになりますね。』
家康の真後ろから、青い装束の政宗が見えた。
『あいつ、単騎だな。』
『また、家臣を置いてきたのか。…家臣も大変だな。』
蹄の音が目の前で止まる。
『お久しぶりです。』
『お元気そうで。』
『家康、政宗。よく参った。大義である。入れ。』
『はっ。』
信長は、にやりと笑うと踵を返し城へ戻る。
『、元気そうだね。』
『また、可愛がってやるからな。』
二人を迎え、安土の武将達は城へ向かい歩き出した。