第3章 繁栄と幸せの狭間
『様。噂は噂にございます。
余りお気になさらず…』
「…でもきっと、なにか言われちゃうよね。」
はため息と共に、自身の下腹部をひと撫でした。
※
その知らせは夕げの後の湯浴の後にやって来た。
「お咲…」
『まぁ、様。お早いお戻りで。温まり…ましたか?』
青白い顔のは、俯きながらポツリと呟いた。
「さらしをまたお願い。信長様に謝ってくる…」
『様!』
珍しく大声の咲に、は驚いて振り返った。
『何を謝ることがございますか!?
巡り合わせと申したはず。赤子が出来ないのは、様に咎があるはずがありません!信長様や武将様たちが何か仰いましたか?
ただ、巡り合わせを待ち、皆様で過ごすこの時間を生き、楽しんでおられるのでしょう?』
「咲…」
は、その場に座り込み泣き崩れた。
「だって、世継ぎが!
信長様の世継ぎが。身籠らなきゃ。男の子を…
じゃないと、私は!
信長様の側で生きられない…」
『様…。』
泣き崩れるを咲は優しく包み込み、背を撫で抱き締めた。
カツン。
襖の際に刀の鞘が当たる音がした。
咲がそれに視線を当てると襖越しに赤と緑の羽織が翻るのが見えた。
※
秀吉は、天守にいた。
先ほどのの取り乱し様と月のものが来た事、そしての胸の内を、信長に報告していた。
『そうか…。』
『の月のものが来た事が広がれば、落胆する家臣が出てきましょう。に良からぬ言い方をしないよう目を光らせておきます。』
『あぁ。して、家康と政宗は?』
『はっ。家康は明日の昼、登城予定。政宗は翌日の予定でございます。』
『には?』
『知らせようと赴きましたが…』
『早々に知らせてやれ。安心するはずだ。
…それと、あやつに天守で眠るよう話せ。月のものだろうがなんだろうが、知らん。あやつの寝床は天守だ。』
『御意。』
秀吉は、すっと立ち上がると踵を返す。
『あぁ、秀吉。』
『は、何か。』
『堺の視察の後に、堺の反物屋と小物屋に寄る。調べておけ。』
『はっ。』
秀吉は、にやりと笑い信長に視線を預けると、すぐにの部屋へ向かった。