第3章 繁栄と幸せの狭間
それから、の体調は一進一退だったが、突然の耳鳴りや難聴は起こらず、信長に護られながら天守で過ごしていた。
食事も体調に合わせて天守と広間を行き来していた。
『御館様、は大丈夫なのですか?』
書簡に目を通す信長に、秀吉は意を決して尋ねた。
『眩暈がひどく起きれない時もあるが…。あやつが言うには、月のものの前触れかと離していた。』
『月のものの前触れ…』
『では、信長様。の懐妊の噂はご存知ですか?』
『光秀、お前!』
『知っている。城使いの家臣達や重臣達までもが噂に踊らされているな。』
『このまま、月のものが来た場合、落胆と心ない言葉に様が傷つくのではありませんか?』
『あぁ、そうだな、三成。御館様、いかがいたしますか?』
『下手に騒ぎ立てるのは得策ではない。もう二日もたてば家康が来る。そうすれば、白黒はっきりするだろう。』
『それであればいいのですが…。視察で安土を離れるのも五日後。の体調が少しでもよくなればいいのですが。』
『ふっ、秀吉。貴様はやはりの母親だな。』
『御館様! 俺はを思って!』
『心配性は母親だからか。』
『光秀!』
『秀吉様が母上様なら、父上様は…。光秀様でしょうか?』
『三成! 俺は光秀と夫婦になるつもりはない!』
『ふっ。阿呆が。への家臣達の振る舞いには皆気を付けておけ。』
『『御意。』』
信長は、ふぅと一息付くと精神を集中した。
しかし、の歌声は聞こえず、信長の視線は書簡に戻っていった。
※
その頃、は天守で、いつものように祝言のお返しである手拭いを縫っていた。
傍らの文机には、何枚もの和紙に書かれた来賓の家紋が置かれていた。
何針か進めると手を止め、雑務をしながら付き添う咲に、声をかけた。
「ねぇ、お咲。」
『はい、様。』
「私、たぶん赤ちゃん出来てないんだ。」
咲は、へ視線をうつす。
「天守に籠っていてもね。私の噂があるくらい知ってるの。でもね、たぶん違う。きっと、生理…月のものは来る。」
『様…。』
「月のものが来たら、みんなきっと落胆してしまうでしょう?」