第1章 Another Story
凛がいつもそうしているように。
首筋に唇を寄せ歯を立てた。
「か、翔琉……っ?」
「しー、動かないで凛ちゃん」
そのままがぶり、と。
首筋へと噛み付けば。
「……った、何……」
見事な所有物(しるし)の、出来上がりだ。
「傷なら治っちゃうけど、噛みあとなら、残るよね?」
「……な……っ」
だから。
そんなにかわいく真っ赤になっちゃ駄目だってば。
「ねぇ、凛?」
親指の付け根、手首よりも上の方、を奥歯で思い切り、噛みちぎる。
微かに滲む、鉄の味。
痛みなんて全然感じない。
血を出すことに、慣れすぎちゃったのかもしれない。
「翔琉……っ、またそれ!!」
真っ青な顔で、今度は凛が右手を奪う。
「もっともっと、酔ってよ」
「ぇ」
痛みなんてこんなもの、なんにも感じない。
キミがこの血液に惹かれてるなら。
いくらでも差し出すから。
いくらでも血液くらい、あげるから。
「………傷治す、だけだから」
「うん」
右手のひらの傷へと唇を寄せて、血液ごと、吸い付く。
かと思えば。
やわらかな舌先が、傷を舐めれば。
「治っちゃ、た……」
「だから、治す、だけだって」
簡単に傷口は跡形もなくキレイに塞がるのだ。
だけど。
血液に触れたあとの凛は。
しばらくその余韻に浸るように恍惚の表情を、見せる。
まるでほんとに酔っているような。
「凛」
また再度。
凛を壁と腕の中へと囲り、唇へと、顔を寄せる。
「しよ?」
「……っん」
返事なんて求めてない。
どんな答えでもやることは変わらないから。
だから。
至近距離で瞳が絡んだのを確認すると、唇をほどよい弾力のある冷たい唇へと、押し当てた。