第1章 Another Story
あれから。
1年。
我ながら仮にもヴァンパイア脅迫するなんてバカげてると思う。
たぶんきっと凛なら簡単に俺を殺すことだって出来たんだから。
だけどあの時凛は、『いいよ』、そう言って微笑んでくれたんだ。
「今度は、凛をちょーだい?」
影の中に囲ったままで。
そう凛を見下ろせば。
暗がりの中でもわかるほどに顔を紅く染める。
その表情がどんなに俺を煽るのか、知らないんだ。
「最近翔琉、血飲んでも倒れなくなったよね」
「そりゃね」
あんな醜態、好きなコの前で何度も何度も見せてたまるか。
不思議なもので。
耐性、ってやつかな。
何回も何回も数をこなすうちに貧血症状も出てこなくなっていった。
今では凛に血を飲まれてもなんともない。
くらくらすることも。
力が入らなくなることも。
「誤魔化そうとしてるならもう少しうまくやんなよ凛」
「そ、そんなんじゃ……」
「ならいい?今度は俺が凛を食べても」
「それとこれとは、別だもん……っ」
「でもさっき血、飲んだから凛ちゃんの方がくらくらきてるんじゃないの?」
「ぇ」
「また、酔っぱらっちゃった?」
「…………っ」
俺の血液は、ヴァンパイアを酔わす作用が、ある。
そう教えてくれたのも、凛だ。
ならそれを利用しない手はないでしょう?
「それに凛ちゃん、全然反省してないんだもん」
「は、反省?何……っ」
ぐ、と。
凛の足の間に右足を押し込んで。
首筋へと唇を寄せる。
「凛ちゃん、体大事にしてってずっと言ってるじゃん」
『あの日』、も、今日も。
リスクに対して凛は反応が鈍すぎる。
あの時だってガラスに刺さったら怪我するし、力いっぱい投げられたボールに当たれば死ぬことだってある。
今日も階段で上から走ってきた生徒にぶつかったのに受け身さえ取らない。
いくら怪我も治るし死なない、とはいっても無傷ではないのに。
この1年でそんな場面はいくつも見てきた。
「反省するまで今日は離しません」
「ええっ!?」