第5章 境界線
茜の誘導に従い竜胆に乗り、黄金と共に風を切って進む。
その道中、神流の頭の中で夜卜のあの言葉が頭をめぐっていた。
闇を怖がっている。
主と神器が通じ合えるあの時。神流が知るはずもない。そう物思いにふけっているときも時は進み、気が付けば黄昏は過ぎ闇が広がり始めていた。
「時化てきた…」
不意に視界が開け、下を見ると妖と雪音とひよりが向かいあっている。状況を正しく理解できる暇もなく妖は雪音に飛びかかった。
神流の体は無意識のうちに妖につぶされるギリギリのところで二人を掴み飛び上がるも、掴んでいない方の左半身を妖に取られバランスを崩した。
そのまま下へと引きずられていく体。伸ばされた右腕を誰かに掴まれ、つぶっていた目を開けるとビルの上にいた。
「…夜卜!」
「雪音、大丈夫か?」
「…妖が…女の子が、中に…アイツ、助けてやってくれよ…頼む!」
とぎれとぎれに切に願う雪音に、夜卜の目は真っ直ぐ妖を見下ろしそしてこう言った。
「わかった。」
「夜卜、あたしも…っ…!」
立ち上がろうとした神流はヤスミの重さに思わずよろけた。ひよりが慌てて支えようと背中を支える。
「神流。その体じゃ無理だ。早く清めろ。俺一人で、充分だ!来い!雪器!」
伸ばされた手は虚しく空を切り、夜卜は下へと飛び降り、雪音は刀となり夜卜の手の中に収まる。それは白い一本の線となり、妖の腕を一本斬り落とした。