第5章 境界線
「で…依頼とはこのことでございますか依頼主様よ。雪音のことは私にはどうしようもできないことぐらいわかってんでしょ。」
「お前、何怒ってんだ。」
「別に。」
窓を開けると夜風が体に冷たく当たり、神流と夜卜はひよりの家を離れた。
「斬ることしか能がないって大変だね。」
「そういうお前は壊すことしか能がないってそれでも女か。」
「女関係ないし。…それより、この先の予定は?何か考えてるんでしょ。」
夜卜は何も答えずに顔を上にあげた。時化の波が次々と霞となって風に散りゆく。
不意に神流の体がゆらぎ、反射的に夜卜は受け止めた。
「お、おい…」
「何でもない…ちょっと眠くなっただけだから。」
「ひよりみたいなこと言うなよ。ったく、危なっかしい神様だぜ。…今からでも遅くない。縁を斬ろ。」
しかしゆるゆると首を横に振り、それを拒否した。この時の神流は異常なまでに頑固になる。だがしかし、今の状態が良好とは思えなかった。
「夜卜、乗れ。」
そういて背中を向けてきた二頭の虎。そして、二人は神流の社へと向かった。