第3章 招かれた厄災
「あいっかわらず、素直じゃないね。」
「お前ほどじゃない。」
夜卜と並んで歩きながら、街行く人々の笑顔を見ては心休める。
店先での笑顔、急ぎ待っている人がいる家へと帰る人の顔、友達と並んで歩く下校中の笑顔、近所の人とお喋りに勤しむ顔、家族で親子で歩く顔、恋人同士で歩く笑顔。
そのどれをとっても、自分が妖を滅する意味を理解できる。そんな神流とは対照的に、夜卜の横顔は厳しいまま。
「…なにかあるなら…」
「なぁ、神流はどう思う。あいつのこと…」
言葉を遮り、目も見ずに話しかけた夜卜。人気のない公園へと足を踏み入れ、思い思いに腰を下ろす。
「どうって…」
返答に困る神流に、夜卜の視線は神流のうなじに向けられた。
それを隠すように思わず右手がうなじに伸びる。
「お前、触れてたんだろ。あの時…正直俺も周りを見てなかった。頭がいっぱいだった。」
「もう少しで、禁忌を犯すとこだった。危ない橋ばかり渡るね。私は。」
「見てられねぇな。」
言い返そうと口を開きかけると、耳元で緊急を知らせる声が聞こえた。声に主は濃緋。いつものように淡々とやや早口喋る。全てを聴き終わると二人は立ちあがった。
「時気て来やがったな。」
「行くか。」