第3章
カーテンの隙間から差し込む日差しが眩しくて目を開ける。
何でこの家から人の声がするんだろう。
だってここには私しか…私"しか"?
「ん…んん…」
「灯桜さん、おはようございます!」
そうだ、確か本家から出て今はぐれ兄の家に…
「んー…あと5分」
「あ、朝ごはんは食べれますでしょうか?」
「起きねぇと灯桜の分の飯食っちまうぞ」
10、9…と数を数え出す夾に脅しだと無視して再度眠りに就こうとすれば4、3…ととうとうそれが本気なのではと思うほど数えるのを辞めない彼に朝ご飯抜きはキツイとすっと布団を畳む。そんな2人の姿に透は楽しそうに笑う。
「そうだ、おめでとう夾」
「はあ?何がだよ」
「今日から暫く私この家に厄介になるから。
透君もこれからよろしくね」
「それは本当ですか!」
「今まで由希と夾とぐれ兄の男ばかりで心許なかったでしょ
夜になったら狼さんが…」
「灯桜?」
「あ、由希君怒った?おはよ」
一緒に過ごすと聞いた透が嬉しそうに両手を合わせながら喜んでいる中、寝起きの悪い由希がこめかみに青筋を立てながら透の背後に立っている。
取り敢えずパジャマのまま居間まで向かえば話が聞こえていたらしい紫呉が清々しい程の笑顔を浮かべている。
「いくら由希君と夾君が多感なお年頃だからって」
「そんなんじゃない!」
「由希君てばむきになちゃって、まぁ由希もこれからよろしくね」
「コイツら………はぁ…不安だ…」
「それより早くご飯を食べて準備しないと学校に遅れちゃうんじゃないの?」
時計を指させばハッとしたように由希も透も、学校が嫌いそうな夾ですら慌てたようにご飯をかきこむ。そんなに急いでご飯食べたら体に悪いとは言え時間なさそうだから仕方ない。学生さんは大変そうだなぁなんて暢気に言う紫呉に誰もツッコむ暇もなく慌ただしく流しに食べ終わった皿を流しに置くと各々部屋から学生鞄を持って学校へと向かう。
「青春だね」
「いや、それは違うでしょう」
「だってあの由希が行ってきますって言うんだよ」
中に居た頃は想像できなかった。由希は暗いあの部屋で慊人以外と会うこともできず、慊人と会えば言われる言葉は否定の言葉。あの頃の由希は何処に行くにも行ってきますなんて挨拶はしなかった。