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根無し草【フルーツバスケット】

第3章   




最初はただ、ほっとけなくて声を掛けた。
その場にしゃがみ込んでただ泣くだけのあの子の近くを通り過ぎる大人たちは心配する気配もなくて、それで思わず話しかけてしまった。


「どうして、泣いてるの?」


なんて、聞かなくても本当は灯桜が泣いてる理由を知っていた。
草摩の家に代々伝わる十二支の呪い。
この十二支の呪いを受けて生まれた子は親に不必要なくらい過保護に育てられるか、拒絶される。
俺の6つ年下の寅憑きの彼女、灯桜はお世辞でも両親と似てると言えない黒混じりの真っ白な髪に左右で色の違う双眸に両親は受け入れることができず灯桜を拒絶した。

最初はそれに同情しただけ。
それでも、声を掛ければ、泣き続ける灯桜は顔を上げた。
灯桜の顔を見て息を呑んだのを今でも覚えている。親には拒絶された左右で違う色のガラス玉のようなその瞳がとても綺麗だったから。
その日から草摩の中で会う度、灯桜は俺の後ろをついて回るようになった。その姿があまりにもひよこのようで、愛らしくて。
でも俺の呪いが解けたあの日、彼女への想いは箱に入れて胸の奥底にしまいこむことにした。


「(なんて、思い出してるんだからまだ俺は…)」

「の…紅野!」

「ごめん、慊人。少しぼーっとしてたよ」

「何?もしかして、あの女の事を考えてたの?
 可哀想だよね、あんな左右で色が違う不気味な目を持って生まれちゃったせいで親にも拒まれちゃってさぁ。知ってる?アイツ最近前髪で片目隠してるんだってさ。隠したって無駄なのに…あ、そうそう、あいつ紫呉の家で暫く暮らすらしいよ。…なんてこんな話、紅野には関係ないよね、だって紅野は僕のだもの。そうでしょ?」


そうだね。なんて大切なはずのあの子を守ることもできず、その上違う子の手を取る俺があの子にこの想いを告げるなんて許されるはずもないのだから、心臓のあたりに感じるチクリとした痛みも胸やけとは違うようなもやもやとしたものに今は気付いてないふりをする事にした。




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