第2章
「慊人のとこ、本当は用事があって行ったんじゃないんだね」
「んー?何の事?」
口の中のご飯を飲み込むと誤魔化す言葉を言う紫呉に灯桜は溜息をつく。
「由希も透君にも出かける事言わないで出かけたんだから、後付けの用事、なんでしょ?」
「まぁね。じゃあそんな察しの良いひおちゃんに単刀直入に言おう、今日から君ここで暮らす事になったから」
いつものようにおちゃらけた調子で言う紫呉に、灯桜は は?と声を漏らす。
「だって、ひおちゃんあの家嫌なんでしょ?
だから例え今日一日ここに泊まっても明日の朝にはどこかに行っちゃうじゃない。それなら一緒に暮らした方が、ひおちゃんも帰って来てくれるかなぁなんて思ったり」
「本当はもっと腹黒いこと考えてるくせに」
「あれ、酷い事を言うもんだね。
それに透君以外が男のこの家にいたら、"彼"が嫉妬してくれるかもよ?」
「…誰の事言ってるの?」
「またまた、好きなんでしょ紅野君の事」
今まで誰にも言っていなかった事を紫呉が意地の悪い顔をしてさらりと当てるものだから驚いて目を見開く。
「例え…そうだとして、だとしてもこれくらいで焼きもちなんて望み薄だと思うんだけど…
まぁ、明日になったらここも出て草摩に帰る予定もなかったから、いいけどさ」
「よーし!じゃあひおちゃんの部屋は夾君の隣の部屋が空いてるから、そこ使って!
僕はまだまだやりたい事があるから部屋に戻らないと、それじゃあごちそうさまでした!」
悪い顔など知らないと言わんばかりに素早く食べ終わったお皿を流しに入れると自室へと嵐のように去っていく紫呉に、また何か妙な事に巻き込まれたような。と溜息をつけば灯桜は今出た新たな洗い物を片してこれから自分の部屋となった部屋に布団を敷きに行った。