第2章
夕飯が食べ終わり、台所にあるテーブルの上には紫呉の分の今日の夜ご飯たち。ミッドナイトブルーに染まる空には点々と星々が煌めいている。
「久しぶりに誰かが作るご飯食べた気がする」
「そうなのですか?」
「うん、美味しかった」
美味しかったと素直に告げれば嬉しそうに頬を緩める透。
何かを思い出すかのように愛おしそうに遠くを見つめる。
「お母さんが、教えてくれたんです」
「そうなんだ、お母さんは好き?」
「はい、大好きです」
そんなお母さんが大好きなはずの彼女がこの家に居るのはきっと。
「灯桜さんのご両親は、どんな方ですか?」
「……いないよ。十二支の子供を持った親はすごく過保護になるか、拒絶するかのどっちか…って由希か夾には聞いたかな」
「紅葉君に。もしかして…」
「私の親は、私を拒絶して草摩に伝わる記憶隠蔽を受けたの。
だから、いない」
「…寂しい、ですか…?」
灯桜をただまっすぐと見つめる透の目には涙が薄っすらと浮かんでいる。そんな透を見つめ返せば灯桜は首をゆっくりと横に振った。
「全然。もう何とも思ってないよ、だから透君も泣かな…」
「たっだいまー!」
「ひぃぃぃいいい!!!」
後ろから突然と大声で帰宅の声を上げ透を驚かすのはこの家の最年長紫呉。悲鳴を上げながら座ったまま今の隅っこに後退っていく透の目に先程まで浮かんでいた涙は驚きで引っ込んだようだった。
「い、いつお、お帰りに…!」
心臓が驚いてバクバクしているのか目をぎょっとさせて胸に手を当てる透に紫呉が満足したように笑う。
「人の事驚かす前に透君が用意してくれたご飯食べなよ」
「それもそうだね、じゃあ透君いただくよ!」
溜息をついて満足げな紫呉を台所に追いやれば部屋の隅っこで未だに胸を押さえる透の近くでしゃがみ込む。
「大丈夫?あとは私やっとくからお風呂入って部屋戻っても良いよ」
「そ、そうしますー…」
一瞬にして疲れ切った表情の透がよろよろと立ち上がって部屋に戻っていったのを見送ると紫呉の前に座る。