第2章
居間には由希と灯桜の二人だけになると、由希が聞きたかったであろうことを口にする。
「…慊人は、誰かにここに来る事を言ってから出てきたの」
「とり兄は知ってる。慊人は今日は機嫌悪いみたいで割れ物たくさん投げてた」
それだけ聞くと由希はそう、とだけ呟いてそれ以上は聞かなかった。
空が東雲色から紫紺彩へと変わる頃玄関からガラガラと引き戸の開く音が聞こえ誰かと居間から廊下に顔を出せば、オレンジ色の髪色を持つ猫憑きの夾が靴を脱いでいるのが見えた。
「おかえり、夾。寄り道してきたの?」
「ただい…は?何で、お前がここに居んだよ」
「やだな、夾ってば。お化け見るみたいに私の事見ちゃって~
今日は透君を一目見にお泊りに来たんだよ」
今日一晩よろしくね、と語尾にハートが付く勢いでふざけて言ってみれば頭を掻いて如何にも面倒くさいと言いたげな顔をして部屋に戻るべく階段を上がっていく夾。
「なぁにあれ、夾君、学校でも透君にあーなの?」
「馬鹿猫の事なんか放っておきなよ、あんな奴いても居なくても変わらないんだから…」
子憑きの由希と猫憑きの夾は仲が悪い。何せ、鼠と猫だから。だからと言って不仲で居て欲しいわけでないのだけど、と心で呟く。
「皆さん、ご飯にしましょう!」
透のその声で灯桜は立ち上がると夾を呼びに二階へ上がっていく。コンコンコンと3回扉をノックして開ければ床に座ってダンベルを持つ夾。
「何だよ」
「ご飯だって」
「要んねぇよ」
「だーめ、夾は強制的に連れていきます!」
一向に立ち上がらない夾の腕をつかんで立たせようとすると辞めろと静止の声が聞こえる。
「折角作ってもらったんだから、食べないと。
透君は由希や夾とぐれ兄の事を考えて毎日作ってくれてるんでしょ、それを無碍にする男はいくら鍛えたって強くなれないんだからね」
「わかったから離せって!食うよ!」
夾からその言葉を聞くと、灯桜は夾の腕を離せば、夾は手に持っていたダンベルを床に置いて部屋の明かりを消した。
夾と一緒に階段を降りて居間に戻れば、机の上にはお皿いっぱいに盛られた美味しそうな肉じゃがと温かい事を示す湯気を漂わせるお味噌汁、野菜たっぷりのサラダとふっくらとした卵焼きが乗っていた。