第5章
「ごめんね、透君。燈路、ほんとは優しいんだけど…」
透と2人きりになると灯桜は燈路の代わりに透に謝る。
一瞬不思議そうにした透はふふと笑みを零すと言葉を続ける。
「本当にお2人は仲がよろしいのですね」
「どう、なんだろ。一時、燈路には嫌われてるんだと思ってたから。
1年くらい前までは全然普通に遊んでたんだけど、急にね。理由もわからないうちに私も草摩の中に居つかなくなったし。だからね、心配してるって燈路の言葉嬉しかったんだよ」
「そうだったのですか…」
不意に伏し目がちになった透は何を考えているのか。
由希や夾、紫呉達とは違って透とは1ヶ月半くらいしか関りがないから何処まで聞いていいのかも謎で。
「ちょっと」
居間と台所の仕切りの襖に寄りかかる燈路にいつから聞いていたのか疑問に思いつつも透が灯桜と透の2人分の驚きを見せたのでそれ以上に驚くことはなかった。
「アンタ今日バイトないんでしょ。何処か遊びに連れてってよ」
「え?…あーでもでも一体何処へ…」
「何それ?そんな事も自分で決められないわけ?好き嫌いも主義主張もないわけ?
他人が敷いたレールの上を安穏と歩いていけば良いと思ってるわけ?っは、それはそれは素晴らしく楽な生き方です事」
「すみません…」
ボロボロと涙を流しながら謝る透と簡単に準備を済ませると靴と家の鍵を持って出かけるべく家を出た。