第5章
「燈路」
透と由希と灯桜の3人でモゲ太のアニメを見た次の日。
昨日の今日で灯桜は燈路と対面している。
「燈路、透君の物盗ったの?」
夾に胸倉を掴まれ何やら揉めていたらしい燈路は灯桜の顔を見ると気まずそうにする。
「あ、灯桜さんただいま帰りました!
…ですが何故ここに?」
透の言葉に灯桜の横にいた紅葉が燈路にべーっと舌を出す。
事の始まりはつい30分程前。学校からそのままバイトへ直行した透に会いに来た燈路が透の亡くなったお母さんの写真が入った手帳を盗って姿を消したのだ。そして手帳を持っていかれた透は頭が真っ白になって路上に座り込んでいたところを紅葉が見つけたらしく紅葉から灯桜に電話が行った。
「なるほどね、全部ウサギの差金ってわけ」
「燈路、盗ったもの透君に返さないとダメ。…燈路?」
顔を俯かせたままの燈路が小さくバカみたいと言った声が聞こえた。
「俺だって要らないよ、こんなもの!」
「Das ist keine art!」
「燈路!」
透に向かって手帳を投げる燈路に人の大切なものを投げるのは良くないと紅葉と夾が声を上げる。
「燈路、どうしたの。どうしてそんな事、するの。
こんなの、燈路も私も透君も他の皆だって嬉しくないよ」
「何だよ、透君透君て!久しぶりに会ったと思ったらボケ女と約束があるとか言って、モゲ太のDVDだってさっさと持って帰って、ボケ女と一緒に見たんだろ!」
漸く顔を上げたと思ったら泣き出しそうな、不満そうな顔をしている燈路に紅葉はあーと何かを察したようだった。
「俺が貸したのに…俺が一緒に見ようって…!」
「でも、燈路、興味ないって…」
「っ…そんなこと!一々口で言わせるわけ!察してよ!」
燈路の家でDVDを借りた時は興味がない、灯桜は好きでしょと顔を逸らし素っ気なく渡してくれていたのは、燈路が素直に一緒に見ようと言えなかったからなのだと気付く。