第2章
質問に答えずに首を傾げて何かを考える灯桜に紫呉が聞いてます?なんて目の前で手を振る。
「本間、……透?に会いに来たんだけど」
「本"田"、本田ね。何だ、ひおちゃんも透君に会いに来たの」
「本田?本間じゃなくて?…本田か。うん、覚えた」
「でも透君、高校生だから今の時間は学校にいるよ」
先程の紫呉の質問には答えなかったけれど、実は大学を辞めている灯桜が今日が平日であった事を忘れていたらしいそのことに気付いた紫呉が困ったように笑う。
「僕も今日は一回家に戻ってまた準備をしなきゃいけないから、誰かがお留守番しててくれると嬉しいんだけど」
実際のとこ家に鍵を掛ければ留守番なんていらないけれど、わざわざ外の人に会いに来た灯桜がこのまま大人しく家に帰るなんて事はないと知っている紫呉は、行方不明になる前に保護することを決めた様子。
「留守番する」
「良かった、じゃあついておいで」
素直に頷いてくれた灯桜に静かにほっと胸を撫でおろせば紫呉は灯桜を連れて草摩の外にあり、今住んでいる家へと向かった。
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「さ、入って。僕は帰りが夜になるけど、夕方になったら由希君達も帰ってくるから、それまでお留守番よろしくね」
引き戸を開け中に灯桜を招き入れると、再度出かける準備をするために足早に自分の部屋に向かう紫呉。靴を脱いで廊下を進めば居間に辿り着き取り敢えず腰を掛ける。
「ぐれ兄、慊人のとこ行くの?」
「まぁそうだね、少し用事があって」
「慊人、今日すごく機嫌悪いよ」
出かける準備を続ける紫呉に、草摩を出る前に見た十二支の神に当たる一族の現当主の姿を思い出した。普段から機嫌がいいとは決して言えないけれど今日はその中でも特に機嫌が悪かった。
「湯飲みと花瓶が飛んでた、気がした」
「ちょっとちょっと、そんな物騒な事くらい覚えといてくださいよひおさん」
痛いのとかおじさん嫌だよーとかぼやく紫呉に、怪我したくないから行かないなんて選択肢はないと知っている灯桜はただただ頑張って、と下駄を履いて出ていく紫呉を見送った。