第2章
ふわふわと雲の上にいるかのような微睡の中。
私は今、夢を見ているんだと思う。
広く大きい屋敷の渡り廊下でしゃがみ込んで泣く4つくらいの小さな女の子。
確か、これは両親が自分達の意思で記憶から娘であるはずの私を消したことを受け入れられなかった時の───
「っ…うぅ…」
「どうして、泣いてるの…?」
「パ、パとママっ…私の事忘れ、ちゃった…
ひお、はいない方がっ…よか、ったの…」
彼はただ泣き続ける私の隣に座って頭を撫でてくれた。
「じゃあ僕が君の事ずっと覚えてる。何があっても忘れない。
だからいない方が良かったなんて言わないで。」
彼は少しの間何かを考えてから私の顔をまっすぐと見て、そう言った。
両親に代われる他の何かなんてないのに。
けれど、まだ小さな私は生まれたての雛が親を追いかけるように彼…紅野を草摩の中で見つける度に後ろをついて回った。紅野も最初は少し戸惑っていたけれど、何だかんだ面倒見の良い彼は会う度に遊んでくれていた。
今でもこうして夢を見るくらい、私は彼が好きなんだと思う。
でももう11、2年くらい会っていない。
紅野は慊人のお気に入りだから、慊人が誰にも会わせないんだって、私に言い聞かせるように戌の物の怪付きのぐれ兄が話していた時の顔は少し怒っていた気がした。
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「ん…懐かし、い夢」
重たい瞼を開ければ太陽は真上にいて、今が昼であることを教えてくれる。
眩しさに瞼を再び閉じれば意識がまた夢の世界に飲まれそうになるのを何とか堪えて寝てしまわぬように体を起こせば瞼を擦って伸びをする。
「ひおちゃん?ひおちゃんじゃない」
聞き覚えのある声に振り返ればそこには着流しに身を包んだ親戚であり、同じ十二支の呪いで戌憑きの紫呉の姿。
「あ、ぐれ兄だ。ってことは何とか辿り着いたんだね」
「何とかって、うちに用事でもあったの?」
大学は?とか誰かに家出る事言ってきた?とか紫呉の質問は聞かなかった事にして立ち上がる。
そう、今日は目的があって草摩から出てきたのだ。