第5章
「…聞かないでおこうかと思ったけど、やっぱり聞く。
何かあった?」
「何も…なんて言っても、隠せてないから聞かれるんだよね。
んん、大した事じゃないと思うんだけどね」
隠せていたと思っていたけれど、それはただ由希が気遣いで聞かないでいてくれただけで、罰が悪そうに笑う。
話せば楽になるだろうかと、由希に話す事を決心すれば頭の中を整理しながら言葉を紡ぐ。
「今日、家に行ったって言ったでしょ。
それで荷物を持って家出た時に、学校帰りの燈路と会って、少し話してから透君と夜ご飯を作る約束をしてるからって言って燈路と別れたんだよ」
家までゆっくりと歩みを進めながら由希は何も言わずに灯桜の言葉に耳を傾ける。
「で、いざ帰ろうって燈路の家を出て門まで向かってたら、親に会ってさ。…って言っても向こうはとうの昔に私の事忘れてるんだけど。
初めて、会ったんだよ。血の繋がった10個も年が離れた弟に。実は姉です、なんて名乗る事も出来ないし、あの2人がずっと子供が欲しかったのも知ってた。けど、物の怪が憑いて生まれた私は受け入れてくれなかったのに、なんて思っちゃってさ、仕方ないのにね」
2人が欲しかったのは十二支の呪いを受けた子供じゃなくて、異性に抱き着かれても変身なんかしない、普通の子供。
「風真が、羨ましいな。とか、私は受け入れてもらえなかったのにずるいー、とかも思った。けど、そんな事より風真が可愛くて。
もっといろんな事も話したいけど、全然何も思い浮かばなくて、怪しかったよね………ってだけ」
年上なのに年下に話を聞いてもらって情けないと苦笑いを零す。
「灯桜は、俺が知ってる限り全然家族の事で寂しいとか顔に出したりしなかったから、少し意外」
「由希が1歳くらいの時は泣いてたりもしたけど、とり兄も相手してくれてたから、だんだん薄れてったというか、もうあの2人は正直どうでもいいんだよね。
…話したらすっきりした、ほら早く帰ろ」
「散歩に行ったきりなかなか帰ってこない誰かを迎えに来たんだろ」
深く息を吸って吐いて、由希の手を取り歩みを速める。
話した事で元気を取り戻した#NAME1#に由希も口角を上げれば揶揄うように悪態をつきながらも、灯桜の歩みに合わせて歩いて帰っていった。