第5章
「ただいま」
「おかえり……って重そうな荷物だね。何処か出掛けてたの?」
玄関の戸を開けて中に入れば、何やら丁度電話をし終えたらしい由希は帰ってきた灯桜の方へ近付くと灯桜の背負う荷物を見る。
「家に、これ取りに。ピアノは無理だけど、弾かないと指動かなくなりそうだし」
「続けてたんだ、ピアノ」
「うん、音、好きだから。…じゃあこれ置いて来るね。
今日は透君と一緒にご飯作る予定だから、楽しみにしてて」
頷く由希の横を通り過ぎて階段を上がり自室へ向かう。
肩に提げていたキーボードを壁に立て掛けると、肩を軽く回す。帰る間も複雑な気分は晴れる事もなかったけれど、由希に怪しまれる事もなく会話ができたことに安堵の息を漏らすと部屋の電気を落として台所へ向かった。
「では始めましょうか!」
今日は2人で一緒に作る事ができる餃子を作るのだと意気込んでいた透は、灯桜が帰ってくる間に餡を作って待ってくれていたようだ。
「あ、透君、夾がニラ苦手なの知ってるんだね。ちゃんと抜いてある」
「はい!でもニラが抜けてしまう分香りが少なくなってしまうのでネギと生姜を増やしてみたのですよ」
夾の苦手な食べ物の話をしながら2人で皮に餡を包んでいく。
1人10個分ずつ食べれるように包んでは油を敷いただけのまだ冷たいフライパンの上に並べていくと、楽しい時間はあっという間というのは本当のようですぐに作り終わってしまった。
「包んだだけで悪いけど、焼くのも任せちゃっていい?
ご飯まで少し、散歩してくるね」
「わかりました、お気をつけて行ってきてくださいね」
透の言葉に頷くと玄関で靴を履いて草摩の山の中を探索するために家を出る。
手入れがされていないわけではなくても、明かりがないこの山の中で月明かりだけでも周りが見渡せるのは、皮肉にも寅の物の怪が憑いているから。
透とあれだけ笑って話をしても結局晴れる事のない胸のモヤモヤをどうにかしようと歩き続ける。
「こんなとこにいた、ご飯になるよ」
「あれ、もうそんなに経った?」
時計を気にせずに山の中を歩き続けていれば、迎えに来た由希が何かを考えて口を開いた。