第5章
紫呉の家に利津が訪ねてきて楽しくも賑やかな出来事は起こり、次は誰が透を訪ねてくるのだろうと考える。
けれど今は…。
「来てしまった…」
#NAME1#が立っているのは草摩の"中"へ続く大きな門の前。
一呼吸置いて門の中へと足を踏み入れる。
「まぁ、由希みたくここに嫌な何かがあるわけではないけど…気は進まないなぁ…」
とぼとぼと歩みを進めながら草摩の中にある自身の家に向かう。門からそれ程遠くない場所にある灯桜の家は重く感じる足でも、時間をかけずに辿り着く事ができた。
1か月と家を空けても家に埃が落ちていないのは、定期的に掃除をしに人が入っている事の証拠である。
元より家を空ける事の多い灯桜の家には最低限のものしか置かれていない。2階の自室に上がり持ち運び鞄の中に入ったキーボードを肩に掛けると即座に家を後にする。
「灯桜」
「燈路、どうしたの?」
「どうしたのって学校帰りなんだけど。聞かなくても、見て察しなよ。
灯桜は抜けてるところがあるからわからないんだろうから特別教えてあげたけど」
家を出てすぐ灯桜に声をかけたのは未憑きで8つ年下の燈路。小学6年生にして大人びている燈路は元より頭の回転が速い上に絶賛反抗期である。
「そっか、学校帰り。おかえり」
「……ただいま。そうだ、渡す物あるから来て」
反抗期とは言え嫌われているわけではなさそうで、言葉の棘は鋭くても中身は優しい子のままなようだ。そんな燈路が渡す物があるのだと自身の家に灯桜を招くと、部屋から持ってきたのはパッケージにモゲ太と書かれたDVD。
「俺は興味ないけど、灯桜はこれ好きでしょ貸すよ。
俺は興味ないけど」
「ありがと、燈路」
モゲ太は燈路とよく一緒に見ていたアニメだ。8歳も年が離れているからか燈路の事は弟のように可愛がって一緒に遊ぶ事多かったけれど、去年辺り燈路が突然余所余所しく避けられる事が多くなった。
「さて、そろそろ帰らないと。透君と夜ご飯一緒に作る約束してるし、今日はこれ取りに来ただけだから帰るね。
また遊びに来る」
「あっそ、ま、気を付けて帰んなよね」
一瞬燈路の眉間に皺が寄った気がしたけれど、一瞬の事でどうしたのか聞く事もできず靴を履いて燈路の家を出た。