第4章
「ずっとこうなんです。子供の頃から物の怪憑きと言う事だけでも迷惑をかけているのに、尚且つ弱虫で軟弱でドジばかりして…
両親は私のせいでいつも謝ってばかり…いっそ、いっそ私のような存在は世を儚む存在かもしれないのに、その根性すらありません…私は何の役にも立たないのに、生に対しては人一倍図太い。そんな自分が腹立たしい…」
「そんな根性要りませんよ!」
不意に屋根から利津とは違うもう一つの声。
それは先程まで下で一緒に利津を心配そうに見ていた透で、由希も夾も気付いていなかったらしく驚きの声を上げる。
「本田さん!?」
「アイツいつの間に!」
「図太くていいじゃないですか!だって、だって人は生きているから。生きているからこそ、こうやって泣いたり悩んだり、喜んだり…」
「でも、生きているだけで私なんかきっとこの世に生まれてきた理由もないのだろうから…」
そんなことないよ。本当は利津にそう伝えたいけど、今伝えたところで草摩の中でともに育ってきた者から言われても気休めにしかならない気がして灯桜は口を閉ざす。
「見つけようとしているのですよ!きっと一生懸命心の中で見つけようとしているのですよ、生まれた理由を…自分の力で!」
力強く言葉を紡ぐ透の目は何かを思い出しているのか涙が滲んでいる。
「だって、初めから理由をもって生まれてくる人なんていないのかもしれないって自分で見つけ出して自分で決めるものかもしれないって思うから…っ!」
その瞬間透が踏んでいた瓦がずれ、転げ落ちそうになる。
瓦が地面に打ち付けられ割れる音と由希と夾が焦ったように透の名前を呼ぶ中、何とかしがみ付いて屋根から落ちる事を間逃れた透は話を続ける。
「例えば…例えば夢や仕事や誰かの中に見つける理由は曖昧で不確かで不安定かもしれないけれど、生きている限りはやっぱり理由が欲しいです、欲しいです…私も。
それでできれば、できる事なら私は誰かの中に見つけたいです。だからそう、だからきっといいんですよ、図太くたって。だって図太く生きていたら、いつか誰よりも一緒に居たいと願ってくれる人に会えるかもしれないですから」
心から真っすぐな言葉を向け、涙を流しながらも笑顔で利津に手を伸ばす。