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根無し草【フルーツバスケット】

第4章    




頭の周りに花を咲かせ目からは涙を流し完成された原稿を手に入れた喜びに浸る満。


「あの…この方は…」

「みっちゃん、満さんだよ。ストーカーじゃなくて、ぐれ兄の仕事の担当さん」


ここで漸く満がストーカーという紫呉の言葉が嘘だと分かった利津は一気に顔を真っ青にする。


「担当さんとは知らず、お仕事の邪魔をしてごめんなさいーっ!」


後ろから透がお盆に珈琲を載せて来ている事に気付かず勢いよく謝るために立ち上がった利津は、当然の如くお盆に載った珈琲をひっくり返す。その出来事が一瞬ゆっくりに見えたが誰も反応する事は出来ずに5つは畳に、残り1つは運悪く机の上に置かれた数枚の原稿の上に落ち珈琲をかぶってしまった。満は急いで原稿をスーツの袖で拭いてみたものの、珈琲のシミは思った以上に濃く、万年筆のインクを掠れさせ読めないものにしてしまった。お化け屋敷で偶然本物と出くわしてしまった人のような奇声を上げショックのあまりその場で気を失う満に、この世の終わりとも言わんばかりの悲鳴を上げて居間を飛び出た利津。


「りっちゃん、待って!」


静止の声も聞こえなかったのか、すぐさま姿の見えなくなった利津を追って外に出てみれば、これから走りに行こうとしていた夾が屋根の上を見ている。


「あぁ…神様仏様、私の犯した罪を許すことなかれ…
 担当さんの命よりも大切な原稿を亡き者にしてしまいました。最早死をもって償うしか手立てはありません…」


屋根の上で涙を流し胸の前で手を組む利津を見てあわわと慌てる透に由希が落ち着くよう言う。


「更に私は皆様の期待を無残に裏切りました、何度もチャンスをいただいたのに…
 あぁ、どうしていつも空回って周りを困らせ迷惑をかけてばかりなのでしょう…」

「今、正にその状況なんだけど…」

「ぐれ兄、それは言ったらダメ。
 りっちゃん、気にしてないから降りといで」


どんなに申の物の怪憑きとはいえ足袋を履いている今足を滑らせれば大怪我を追う事になると考えれば降りてくるよう利津に勧める灯桜、けれど利津は首を横に振れば更に言葉を続ける。






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