第4章
「紫呉兄さん、あの方は一体…」
利津の質問に紫呉の顔を見れば、流石根からの演技派と言うか、困惑している表情を作る紫呉。
「んん…所謂ストーカー、ってやつだね。
家までばれちゃって、ほとほと困っているんだよ……というわけで、りっちゃん、追い返してくれない?」
困っているという顔は何処へやら。利津に嘘を吹き込んだ上に笑顔で満を追い返せと言う紫呉に灯桜は心の中で嘘つき。と悪態をつく。
「りっちゃん!これはまたとないチャンスなのかもしれないよ!
無事ストーカーを追い返すことができたら、君は大いなる一歩を踏み出す事となるのだ!」
「兄さん…。わかりました!私行って参ります!」
どうやら利津は紫呉の嘘を本気にした上紫呉が自分の事を思って頼んでいるのだと勘違いしたらしく、胸の前でぐっと拳を握り決意する。そんな利津に紫呉は悪戯成功と言わんばかりに持っていた扇子を広げべっと舌を出し利津が玄関に向かったのを見届けた。
「ぐれ兄、嘘つきだね」
「まあまあ、これもりっちゃんの事を思っての事だよ」
紫呉の事を信じて玄関に向かった利津が可哀想に思えてきたのかジト目で紫呉を睨みつける。けれど玄関が何やら騒がしくなってきたのか玄関からは先生と大声で呼ぶ声が居間まで聞こえる。
「呼ばれてますよ、せーんせ」
「仕方ない、遊ぶのはここまでにしてそろそろ出てあげますかね」
やっぱり遊んでたんじゃん。と呟けば、紫呉と同じタイミングで立ち上がって縁側のガラス戸を開けば玄関の外でどこから取り出したのか満が筆を持ち遺書らしきものを書いてるのが目に入った。
「やぁ、みっちゃんごきげんよう!」
「先生、何で普通に出てきてくれないんですかー!」
泣きながら怒る満に何でだろうねーと笑って誤魔化す紫呉に溜息を1つついた後外では難だからと満を居間まで通す。
「…で、先生、原稿。原稿は!」
「勿論、あるとも」
漸く本題に入れると、原稿の話を切り出す満に、はいと完成された原稿を手渡す紫呉。心の中でできてるなら最初から渡してやれよ、と由希と灯桜が思ったのは内緒である。