第4章
「ただいまー」
利津の謝罪禁止イベントを開始してすぐ、夾よりも由希が先に帰宅したらしく、玄関の戸が開く音を同時に由希の声が聞こえた。
「由希、帰ってきたみたい。りっちゃん頑張れ」
「あ、え、でもまだ心の準備が…」
「りっちゃんさん、ファイトです…!」
「あれ、利津?何でここに…」
心の準備をする時間もなく居間に登場した由希は利津を見るなり声をかける。
「ダメですよね!私なんぞがやっぱりここにいてはダメですよね!」
謝る事が癖になっているせいか、頭を抱えて謝る利津の腕を掴むと灯桜は落ち着いてと囁く。するとはっとしたように利津は呼吸を整えて再度口を開いた。
「あ、由希さん、面立ちが綾兄さんに似てきましたね」
「それは…ダメかも…」
由希は兄である綾女に苦手意識があるようで、利津の言葉を聞くと踵を翻して低めの声でごゆっくりと告げて部屋に戻ろうとする。
「え、私何か余計な事を!?」
「…別に」
利津の方へ振り替える由希の目は氷のように冷たい。
1回目は失敗に終わった。…と思えばパシャンと2回目の玄関の戸が閉まる音。今度は夾が帰ってきたようだ。
「お、今度は夾君が。りっちゃん気を取り直して次行ってみよう!」
「何で利津がいんだよ」
「ダメですよね!私なんぞがここにいたら…ッハ」
夾の言葉に再びパニックになるのかと思ったけれど、どうにか自力で我に返った利津の成長に透と灯桜は互いの顔を見遣って微笑んだ。
「と、透さんにご挨拶を…
あのー…夾さん、よかったですね。由希さんと一緒に生活されるほど仲良くなれたのですね!」
「仲良くない!」「仲良くねぇ!」
由希と夾の怒声に利津のごめんなさいーっ!が草摩家の山に響いたのは言うまでもない。どうやら2回のチャレンジは失敗に終わったようだ。
「仲良し設定撤回します!ごめんなさい、今すぐ帰ります!やっぱり私のようなろくでなしは、このお宅を訪れるべきではなかったのです!今すぐお暇させていただきます!私ごときが長いしてしまってごめんなさいーっ!」
「待ってください!」
走って玄関へ向かおうとした利津とそれを止めようと立ち上がった透がぶつかる。その瞬間ぼふっという音と辺りに煙が漂った。