第4章
「先生!原稿いただきに上がりましたー!早く出てきてくださーい!」
灯桜が透と利津の話をして早1週間と数日。
蝉が鳴く暑い夏、昼間に草摩家の扉の向こうで先生と呼ぶ女性の声が聞こえる。
先生とは言うまでもなく、この家の主の紫呉である。
「またまたー、居留守使っちゃってー
せんせー!先生ってばー!せんせー!」
そんな彼女の呼ぶ声が聞こえているにも関わらず居留守を使う紫呉と面倒ごとには首をつっこまない主義の灯桜。
「…ぐれ兄、電話鳴ってるよ。出てあげたら?」
「仕方ない、か…」
そのうち外にいる女性が痺れを切らしたように先生と叫ぶから、灯桜が溜息をついて紫呉の電話を指さし小声で電話を取ることを促す。
「はいはーい」
『先生!今どこですか!?』
「あーそれがさ、無性にたこ野郎のたこ焼き、食べたくなっちゃってねえ」
『へっ、今日締め切りですよ!?』
「あーれれー?そうだったっけ?」
その一言を告げてプツッと通話を切る紫呉が明らか外にいる女性で遊んでるのだと理解すれば彼女に同情の念が沸く。けれどここで首をつっこんでも面倒事が自分に降りかかるのも目に見えているから大人しく何も言わずに外の女性の動向を伺う。
外から何やら暴言が聞こえた後ガラス戸の向こうに見えていた人影が消えると勝ったと言わんばかりに紫呉が笑うから灯桜は再度溜息をつく。
かと思えば次は何やら外でやりすぎといわんばかりの謝罪が聞こえると紫呉と灯桜は顔を見合わせて縁側のガラス戸を開けると、そこには学校から帰ってきた透と申の物の怪付きの利津がいた。
「おー?何でりっちゃんがいるの?」
「ぐれ兄、その言い方はダメ。」
「すみません!私ごときが訪問してきてごめんなさあああああい!」
ここは草摩一族の所有している山で他に誰もいないとは言え、万が一外の誰かに聞こえてたらと考えると、灯桜は何時もの事とは言えヒステリーを起こしやすい彼女…とそれに戸惑う透を玄関の鍵を開けて家に招き入れた。