第6章 許嫁
伯爵が笑顔を見せるその隣では、明らかにショックを受けている様子のキャサリンが、未来を凝視しながら立ち尽くしている
そんなキャサリンに気づいた未来は、どんな顔をしていればいいか分からず、隣に立つ元就を見上げれば、元就は未来の着物の帯辺りに手を回し、未来をそっと引き寄せ微笑む
元就のその行動にキャサリンは眉をひそめて、未来の腰に回った手を悲しい瞳で見つめている
元就の微笑みに未来は目を奪われた
(この人、演技でもこんな顔で微笑むんだ…)
「伯爵とキャサリン様にも紹介したいと思っていたのですが、まさかこんなに早く未来と会わせられるなんて」
その言葉でいたたまれない気持ちになり、目を伏せる未来の顎を元就は指ですくい視線が合わせる
「未来…どうかしたか?」
「い、いえ…ちょっと疲れてしまったみたいで…」
名前を呼び捨てで初めて呼ばれ、速まる鼓動を隠すように目が泳ぐ
(この人、こんなに整った顔立ちしてるんだ…。って、振りだって分かってるのに…、何考えてるの私)
「船旅で疲れてしまったようだな。気づかなくてすまなかった、そろそろ戻ろうか」
未来を気遣う元就の言葉や行動に、演技と分かっていても胸の鼓動が早くなるのが分かる
「伯爵、キャサリン様、申し訳ありませんが本日はこれにて失礼させて頂きます。またお会いできるのを楽しみにしております」
「うん、今度の"取引"楽しみにしててよ」
含みのある言い方に未来はもう一度伯爵を見上げると、伯爵は未来へ片目をつぶって目配せをした
「あ…、それではまた…」
キャサリンの様子など気に留めることなく、元就は未来に寄り添い茶屋を後にする
伯爵の横を通り過ぎる際、元就と伯爵が密かに冷たい視線を交わしたことには、未来は気づいていない
茶屋を出て振り返ると、立ち尽くすキャサリンの後ろ姿に未来の心が痛んだ