第5章 毛利元就
「…それ以上近づいたら、本当に死にますよ」
未来に睨みつけられる元就は大袈裟に肩をすくめた
「分かったよ。泣き縋らなくてもお前を買い取ってやるよ」
「…どう言うつもりですか?」
「気が変わっただけだ。…ほら、それしまえ」
元就は拾い上げた鞘を未来の前に差し出した
受け取ろうとおずおずと近くと元就は未来の隙をつき、懐刀を床へ叩き落とした
「……っ、何するんですか!」
床へ落ちた懐刀をすかさず拾おうとする未来の手錠を掴み、元就はそれを阻止する
「理解できてねェみたいだから、一度だけ言っておく。お前はもう俺の物だ。買われた奴隷は奴隷らしく、ご主人様に噛みつこうなんて考えねェことだ」
深い赤色をした瞳が近くまで迫り、低い声で未来へ告げる
「返事はどうした、奴隷」
(今この人に逆らっても仕方ないけど…)
「……っ」
「よく分かっただろ。人が人を支配するなんざ、反吐が出るだろ?」
手錠を掴んでいる元就の手の力が強くなった
「…なんのことですか」
「お前がさっき言ってたじゃねェか。"人を導く"人が必要だって。要は奴隷と同じだ。信長が天下を取れば、民は信長の奴隷。南蛮と渡り歩きたいと考える信長なら、俺たちは異国の奴隷に成り下がる可能性もある」
「それとこれが同じだって言うんですか?」
「俺はお前を買った。つまりお前の言葉を借りるなら、俺が指導者でお前が俺に導かれる奴隷だ。良かったな、お前の望む世界じゃねェか」
未来を嘲笑うように見下ろす元就
手錠をずっと掴んでいる元就の手を振り払い、元就を睨んだあとそっぽを向いて背を向ける
それが今の未来に出来る精一杯の抵抗だった