第5章 毛利元就
さっきまでのやりとりを思い出していると、元就の声が聞こえてきた
「外なんか見てても助けはこねェぞ」
「…どうして、信長様を倒したいんですか?」
「は?」
未来は視線を元就に向けて、疑問を口にした
「信長様に天下を取らせたくないから倒したいんですよね?だったら、その理由はなんですか?」
「…なら、お前はどうして信長についていくんだ」
(聞いてるのはこっちなのに…)
「…人には"導く人"が必要だと思います。…指導者、みたいな人が。そばでお仕えしていて、信長様はそれに最もふさわしいと思うからです」
「はっ、笑えるな。人が人を支配するなんざ愚の骨頂だ」
なにも映さない冷たい目が未来を見下ろす
「お前がそう思うのは勝手だが、それを俺に押し付けるんじゃねェ。それぞれに欲があるから、天下取りだの国取り合戦だの大義名分をほざいて、戦と言う殺し合いがいつまでたっても無くならねェ」
「………」
「だったらいっそのこと、終わらなきゃいいだろ。欲に塗れた薄汚い人間共の殺し合いなんて」
「なに言ってるの…」
コンコン…
二人の会話を遮るように部屋の戸をノックする音が鳴った
「入れ」
元就から声がかかり、扉の向こうから現れたのは、異国の紳士だった
「…ほう。これはこれは美しいレディーではないか、ショウ」
「支配人にお気に召していただけて何よりです」
元就は席から立ち上がり、松寿丸の笑顔を被りあからさまに遜る
(ショウ…?もしかして"松寿丸"のショウのことかな)
「明日の良い目玉になる。これは高値が付きそうだ」
支配人と呼ばれた男は未来を品定めするように、文字通り頭からつま先まで舐め回すように眺める
目玉、高値…その言葉に反応して、未来は元就を睨む
「お姫さんは、明日この船で開催される"おーくしょん"に出品させることになったんですよ」
「なに言ってるの…」
元就の言っていることを理解できず、訝しげに元就を凝視する未来
「なんなら今夜、支配人の相手でもしてくるか?」