第5章 毛利元就
数刻前、薄暗くてカビ臭い匂いが漂う部屋で未来が目を覚ましたとき
松寿丸の正体が毛利元就だと聞かされ、混乱する頭で未来は必死に整理していた
(…この人が毛利元就…っ⁉︎でも怯えちゃだめ…。冷静になって考えないと…)
自分の状況を考えただけで指が震えだしてきた
(ここはどこだろう…。少なくとも秀吉様たちにはきっと見つかりにくい場所なはず…)
視線だけを動かし、そこから得られる情報を懸命に探す
ゆっくり息を吐き、質問を口にする
「私をさらった目的はなんですか?」
「意外と肝が据わってんだなァ。世間知らずのただのお姫(ひい)さんかと思ったが」
「…教えてくれるんですか?教えてくれないんですか?」
「くく…。お姫さんは信長を倒すための駒だよ」
元就は何故か愉しそうに口元を緩める
「私にそんな価値があるとは…」
「あるぜ、お姫さんにその価値。寵姫だって噂もあながち間違ってないみたいだしな」
「…そんな噂信じるなんて…、謀神(はかりがみ)なんて異名、大したことなさそうですね」
あえて挑発するような言い方をする未来
「てめェ、頭に舐めた口を‼︎」
「良い。黙ってろ」
後ろに控えていた男が怒りを露わにするが、元就は気にせずそれを制する
「しかし…っ」
「この状況で噛み付いてくる女、そうはいねェ。おもしれェじゃねェか。まっ、その気の強さで自分の首絞めねェようにしねェとなァ?」
椅子から立ち上がり、未来を見下ろすように愉しげに笑う元就
「おい、部屋に戻るぞ。その女連れてこい。…あ、丁重に扱えよ。なんたって相手は信長の寵姫だ」
武装した男たちへ声をかける元就は未来を嘲笑うように歩き出した
強引に立たされた未来は、元就の後に続くしかなった