第16章 垣間見える優しさ
元就たちから少し離れたところで
気分がだいぶ良くなってきた未来は、近くに止めてある豪華客船を興味津々に眺めている
(わあ…近くで見上げると本当にすごいな。この時代で船の形が出来上がってるなんて…。海外製の物が良かったりするのかなあ…)
「おい、なに惚けてんだ」
背中から聞き慣れた声が飛んできた
「あ…。もう終わったんですか?」
「ああ、今日のところはな」
「あれ、広良様は…?」
「贔屓にしてる反物屋に用があるんだと。ったく、どいつもこいつも呑気な奴ばっかりだな」
「元就様はまだ他に用事があるんですか?」
「この後は、商館で帰蝶と落ち合う予定だ」
「帰蝶…さん?私も一緒ですか…?」
(帰蝶…って、どこかで聞いたことがあるような…)
「商館には連れて行くが同席はさせねェよ。敵に手の内明かす程どっかの誰かと違ってお人好しじゃないんでな」
(敵…か。今日は色々とガツンとくるなあ…)
未来は、下を向いてしまいそうになるのをグッと堪えて、平然を装った
「じゃあ堺の町を見てても良いですか?」
「あ?阿呆かお前。誰が奴隷を自由に出歩かせるんだよ」
「でも逃げませんよ、こんな土地勘のないところで…」
「却下だ」
「でも前に、私の"目の保養になる"って仰いましたよね」
「なっただろ?お前がさっき見たのはまだ日ノ本に出回ってない代物ばかりだ」
(いやいや、あんな物騒なもの…)
「でも、毛利元就に関する情報を得てくるとも、信長様に仰いましたよね」
「はっ、そんな情報どうにでもなる。何故なら毛利元就はここに居るからな」
「もうっ、ずるいです!」
「ははは。奴隷は奴隷らしく、黙ってご主人様についてくれば良いんだよ」
そう言い放つと元就は歩き始めた
そんな元就の背中を見つめながら、こんなやり取りですらも、少し嬉しいと未来は思ってしまう
もう振り返りもしない元就の後をついて行くしかないと、未来はとぼとぼと歩き出した