第16章 垣間見える優しさ
あの日、触れ合った時に名前を呼び合って以来、お互いの名前を口にしないようにしていた
名前を呼び、呼ばれたくらいで、何故こんなに胸が詰まるのか
「…俺はもう戻る。お前もほどほどにしろ」
未来の方は見ず、元就はその場を後にした
「どうして、奴隷なんて呼ぶのに、優しくするの…元就様…」
葉巻の香りがする羽織りをまとっていると、元就に包まれているようで涙を誘う
ずるずるとその場にしゃがみ込み、ズキズキと痛む胸が治るまで、未来は羽織りに残った温もりと香りを感じていた
元就もまた、部屋に戻ると、耳に心地よく残っている未来の声を思い出していた
「未来…」
名を呼ぶ掠れた声は、部屋の静けさに溶けていった
それから間も無くして、船は堺港に着いた