第1章 ブラック本丸へご招待
次の日になり、
身支度を整える。
まだ6月とはいえ、そこそこ暑い。
早く絽の着物を着たいと6月に入ってからは
うわ言のように呟いていた。
ところが、今日は
単衣の着物でも充分涼しいくらいだ。
というより、不気味な肌寒さを感じた。
梅雨の時期だし、
帯は紫陽花柄にしようか。
それとも、季節を咲きどって朝顔にしようか。
いや、着物の柄が既に紫陽花だから、
帯は番傘柄にしてとことん梅雨を演出しよう。
朝はこの時間が1番わくわくする。
洋服じゃほとんどできないが、
着物は柄によって物語が作れる。
着替え終わり、一服していると
インターホンがなった。
一吸い、深く肺に取り込み吐き出せば
はいはーいとだらしない声と共に扉を開ける。
「昨日はどうもありがとうございました。」
『こちらこそ。』
そんなテンプレな会話をしながら、
中に招きいれ、引いた椅子に座ったのを確認する。
「素敵な装いですね。」
『でしょ?気に入ってんねん。これ。』
どうぞと紅茶をテーブルに置いていると、
既に契約書が広げられていた。
『これを書けばいいんですね。』
お願いします。と言う声と共に
契約書にペンを滑らせる。
「もっと躊躇するかと思っていました。」
『躊躇するなら、昨日してますよ。』
そして、注意書きのところに目を通していると、
ふと、気になる点があった。
『刀剣男士と契りを交わした場合について?』
「あぁ。中には刀剣男士と夫婦になる審神者様もいらっしゃいます。
その場合、寿命もかなり長くなったり、不老不死になったりします。」
『何そのチート。まぁ、ええか。』
注意書きを確認し、拇印を押す。
「これで、契約は交わされました。
では、早速。」
そう言って、玄関に向かった。
「この扉を開けると本丸の廊下にでます。
お伝えした通りブラック本丸になりますので、
危険なことも多々あるかと思われます。
自分自身に結界などを張ったりして、身を守ってください。
まだ現状、審神者がいるので、政府がすぐにでも捕縛する予定です。
刀剣男士たちが審神者を殺して闇堕ちする前に、
何としてでも貴女が彼らを説得する方向に持っていってください。」
『なんそれ、ハードル高。』
「では、捕縛部隊を連れてまいります。
ご武運を。」
あの人、言い捨てして行くの流行ってるん?