第1章 ブラック本丸へご招待
開いた口が塞がらんと言うのはまさにこの事だなと
頭は思いのほか冷静だった。
驚いていることに変わりはないけど、
話を聞かないことには始まらない。
とりあえず、中にどうぞと案内をし、
占術中の札を扉にかける。
自分を落ち着かせる意味でも、
冷たい飲み物をと、グラスにお茶を注ぐ。
氷のカランっとなる音で
審神者について少し考えるくらいの余裕ができた気がする。
男と向かい合って、
息を着く。
『審神者の件ですけど、お断りさせて頂きたいです。
もちろん、噂には聞いてはいましたし、
嫌とかではないんですけどね。』
どちらかと言えば、したいとは思ってはいる。
「理由をお聞きしても?」
『今月から経営始めたばかりで、
力貸してくれてる従業員に、
審神者になるんで、後はよろしゅう!なんて
無責任なことはできませんから。』
「その責任感、流石ですね。
益々審神者として今後お力添えを頂きたいくらいなのですが。
本人を目の前にして言うことでは無いかもしれないのですが、
一筋縄ではいかないこと、重々承知致しております。」
凄く魅力的なお仕事だとは、思う。
だけど、
経営者として、
最低でも週に2回は占い師として出勤とまでは行かなくとも、
金勘定だの、店の様子だのを見なくてはならない。
充分任せられるほどに、受付の子達を含め
その他の占い師も信頼出来はするのだが、
だからといって、いつ終わるかも分からない戦いの期間、
店を放ったらかしにすることは出来ない。
「では、たとえばですが。
こっちとあっちを行き来してもいい。と言われたらどうしますか?毎日は難しいですが、週に2回とか。」
心でも読んでるんだろうか?
『そんなことが出来たんですね。
噂によると、歴史のこともあってか里帰りくらいの頻度でしか帰って来れないって聞いたことあるんですけど。』
「えぇ。本来ならばそうです。
ですが...そうも言ってられないのが現状です。」
さっきまで雄弁に話してた男が急に言い淀む。
『何か問題でも?』
「まぁ...貴女がもし審神者になってくださるとして、お願いしようと思っていたのは、
所謂ブラック本丸なんです。
貴女ほどの霊力に溢れている人は中々に居ません。
ある程度の厳しい条件を飲んででも、
喉から手が出るほどに欲しい人材なのです。」
なるほど... ブラック本丸か...