第3章 日常の始まり
裸足で走った。
血だらけになった足なんて省みるつもりもない。
ただただ無我夢中で走った。
逃げたくて逃げたくて、
張り裂けそうな胸を引きちぎってしまいたいと思っても、
出来るはずもなく。
宛先もなく走って止まった先は海だった。
息切れした声で叫んでみても悲痛に切れた音しかでない。
悲しみの先には大きな決意と執念。そして恨みが残った。
『昔の話やわ。』
大倶利伽羅「それでどうだったんだ。」
予想外の答えに『え?』っと顔を上げた。
今はどうなんだとでも言いたげな目をしていた。
『あっけないもんやな。と思ったよ。見下してやろうと思ってた彼らは、見下す前に勝手に潰れた。今は行方すらわからん。』
大倶利伽羅「そうか。」
『ただ、目標はある。』
占いといった商売は格式が高いイメージをつけられるか、
もしくは怪しいとでもいうような目で見られがちだ。
格式を下げるには入り口を気軽なものにするしかない。
『占いカフェとかしたいな~。
ここと両立できるかはわからんけど。』
大倶利伽羅「すればいい。」
簡単に言うてくれるなぁと笑えば、アンタ一人で無理というなら、一人でしなければいいだけの話だと言われる。
『それって…』
大倶利伽羅「頼ればいい。もう一人で抱える必要はないだろう。」
それじゃまるで、誰かに認めてもらいたい、褒められたいと願う子供のようじゃないか。
それでもその言葉は、一人で生きてきた私にとって、
一番欲しかった言葉だったのかもしれない。
零れた涙は、きっとあの時の私の涙だ。
今頭を撫でてくれているこの手は、
きっと裏切ることはないだろう。
信じてみようか。信じて、好きになってもいいんだろうか。
そう心で呟きながら、目を閉じた。