第2章 1日目 ―春日山城―
「信玄様、謙信様、失礼します。」
女中が障子を開けた先には、薄らと見覚えのあるような──大きな部屋が広がっていた。
そんな広間の中央には、2人の男が悠々と座っており、その周りには幾人もの家臣が傍に控えている。
(なかなか圧があるな……)
2人の武将の気迫を感じつつも、その圧に押されることなく、「失礼します」と一礼して、広間へと足を踏み入れた。
対面する形で腰を下ろすと、1人の男が重たい空気の中、口を割った。
「やぁ、麗しきお姫様、ごきげんよう。春日山城へようこそ。」
「…………は、はぁ……?」
(思ったより、物腰柔らか……?)
「急な頼みで申し訳なかった。だが……やはり、近くで見るととても美しい姫君じゃ───」
「信玄、くだらぬ言葉を吐くな。」
いきなり口説かれたかと思えば、隣に座るもう1人の男が静かな怒りを意を示す。
「こーら、謙信。くだらないわけないだろう。そんな口ばかり聞いてると、姫君に嫌われるぞ。」
「ふん、つまらん……」
(この2人が、甲斐の虎と越後の龍……)
その言葉が頭の中で何度も木霊し、
ふいに脳裏に蘇るのは忌々しい過去の残骸。
何度も忘れようとして、
忘れられなかった、最悪の記憶。
「あのっ……お、お初にお目にかかります。私、名を神楽と申します。これからどうぞ宜しくお願い致します。」
腹の底からフツフツと怒りが湧き上がり、
いつもの冷静を保とうと自己紹介をするのが、今は精一杯だった。