第2章 1日目 ―春日山城―
「神楽…………いい響きだね。天女である君にとても相応しい名前だ。」
「てっ、ててて……天女だなんて、と、とんでもありません!」
甲斐の虎───武田信玄は、神楽のことを『天女』とずっと呼んでいた。
無類の女好きとは噂に聞いていたが、まさかここまで堂々と口説かれるとは、彼女も流石に思っていなかった。
まるで、神楽の警戒心を解き、かえって油断をさせるような冗談ばかり。
決して気を抜かないよう、必死に笑顔を作ってやんわりと返すことだけを考えていた。
「さて、このあとに軍議も控えているから、惜しいけど……これで挨拶は終わりにしようかな。さあ、神楽を部屋に案内してやってくれ。」
「かしこまりました。」
信玄がそう言うと、近くにいた女中が立ち上がり、神楽を元の部屋へ戻ろうと促した。
「天女、今夜の宴でまたお目にかかろう。」
「あ、はい……失礼しました。」
地獄の時間がこれで終わる……かと思いきや、
盛大な歓迎の宴を行うと聞き、
神楽は内心でとてもげんなりしたんだとか。