第4章 夕虹
目を閉じたまま、昨日の自分の身に起きたことをひとつずつなぞる。
なんとか着替えてホテルを出て。
重い体をひきずるように帰ったら……ニノがいた。
俺の姿をみて、大丈夫?!と、肩を貸してくれて……ああ、そうだ。
どろどろで気持ち悪かったからすぐに風呂に入ったんだっけ……
それで……
そこで記憶が途切れる。
どうしてそんな展開になったのか。
なんで……ニノが俺を抱いたのか。
どうして、あいつは泣いていたのか。
……ダメだ……聞かなきゃわからない……。
俺は考えるのを中断して、吐息をついた。
「さむ……」
熱いけど寒い。
肌掛けにくるまり、胎児のように体を小さくした。
店長に、終わった報告はしたけれど……クスリを使われた事実は伝えてない。
変な客だった、とだけ伝えとこうか。
俺の他のやつが被害にあっても可哀想だし。
23時すぎならば店は落ち着いてるだろう、と判断して、もう一度手をのばし、スマホで店長の名前を呼び出した。
『もしもし』
コール二回で、いつもの低い声がでた。
「……あ、お疲れ様です……大野です。今大丈夫ですか」
『おう。どうした』
「……昨日の……客なんですけど……」
『うん』
俺は、行為中に、なにかを問答無用で盛られたことを報告する。
店長の声が硬くなる。
『……それで、おまえはもう大丈夫なのか』
「はい……」
『声がおかしいぞ』
「ちょっと……体調崩したみたいで」
店長は電話口でため息をついたみたいだった。
『わかった。こっちで調べて、今後一切、昨日の客とその紹介者は受けないように手配する』
「よろしくお願いします」
『……大野』
「はい」
『すまなかったな』
「……いえ」
明日のホールは休め、と言われ、俺は礼を言って通話を切った。
そこが、限界だった。
スマホを握りしめたまま、俺は、意識を落とした。